最新記事

世界経済

新興国経済、失速の構図

ブラジル、中国、インドの快進撃もここまで。新興国頼みの経済成長はもう望めない

2012年7月17日(火)15時05分
マシュー・イグレシアス

急ブレーキ 中国では景気減速で投資ブームに陰りが見え始めた Reuters

 アメリカ経済はいまだに大不況からの回復途上で、ヨーロッパ経済は崩壊しかけている。それでも世界経済全体は好調だった。02〜08年に驚異的な成長を遂げ、09年にやや落ち込んだものの、再び成長軌道に乗った。残念なことに、その立役者であるブラジル、中国、インドの経済の快進撃は終わりに近づいているようだ。

 先月末、ブラジルのトラック・バス市場で第2位のシェアを誇るメルセデス・ベンツが、同国内で従業員1500人を一時解雇すると発表。ボルボもブラジルでのトラック生産の一時中止を発表している。ブラジルでは先月前半の大型車販売台数が前年同期比で28%も減少。昨年の経済成長率は3%をやや下回り、今年の成長見通しが下方修正された。ブラジルの景気が悪化すれば、対ブラジル輸出に依存しているアルゼンチンなどにも飛び火する。

 中国とインドも雲行きが怪しい。先進国を追い上げる過程で、途上国・地域は公共政策を改善し、外国の生産技術を取り入れ、急速に豊かになる──この「追い上げ成長」が昔からアジアのやり方だった。日本の高度経済成長に次いで「アジアの虎」(韓国、台湾、香港、シンガポール)も通った道だ。広大な中国とインドの経済成長は世界経済全体の成長につながった。08〜09年の金融危機のさなかも世界経済が成長し続けたのはそのためだ。

 インド経済の減速は非常に気になる。インド政府は昨年11月、小売市場の外資規制を緩和すると発表した。米ウォルマートなど大手小売りチェーンの参入を認め、彼らが生産性の高い国の農家との協力で培ったノウハウをインドの農家に伝える。そうすれば、農民の賃金アップと都市部の貧困層の生活水準向上につながるはずだった。しかし根強い反対に遭って12月に規制緩和を凍結。外国人投資家の信用を損なった。

中国「投資ブーム」の限界

 中国の場合、00年代の経済成長の原動力はもっぱら富裕国、特にアメリカへの輸出だった。アメリカの景気後退で変化を迫られた結果、今では中国の貿易黒字は落ち着いており、貿易赤字になる月もあるほどだ。

 ところが中国政府は、消費者本位の経済を目指すのではなく、国内で空前の不動産・インフラ投資ブームを仕掛けて景気後退期を乗り切った。投資自体はいいことだが、投資の2桁成長を維持するのは不可能だ。当然、不動産バブルの崩壊が始まった。公式GDP統計は依然堅調に見えるが、電力消費量や鉄道貨物輸送量といった「人為的」でない統計は中国経済の急激な減速を示している。

 世界の新興国は今や密接に結び付いている。中国の好況はブラジルの航空機や農産物の輸出を後押しし、ブラジルの経済成長はアルゼンチンの輸出に弾みをつけてきた。その結果、中南米全域に国産車市場が生まれた。アフリカでも1次産品の輸出が00年代の記録的な長期経済成長の追い風になった。世界で最も貧しい地域であるアフリカにおける所得の拡大は、子供の死亡率が急速に低下するなど、福祉面で大きなプラスとなっている。

 今回は金融危機後と違い、中国に世界経済の牽引役を期待することはできそうにない。ヨーロッパではユーロ危機が進行中で、アメリカは債務上限引き上げ問題という火種を抱えている。リスクはこれまでになく高い。

 08〜09年は経済の暗いニュースが相次いでも、新興国の成長が希望の光となっていた。しかし今回は違う。富裕国がしっかりしなければ世界経済全体が失速することになる。

© 2012, Slate

[2012年6月13日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

マクロスコープ:円安巡り高市政権内で温度差も、積極

ビジネス

ハンガリー債投資判断下げ、財政赤字拡大見通しで=J

ビジネス

ブラジルのコーヒー豆輸出、10月は前年比20.4%

ビジネス

リーガルテック投資に新たな波、AIブームで資金調達
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 4
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 9
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 10
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中