最新記事

世界経済

TPPアメリカの本音と思惑

国内の逆風をはねのけてでもTPPを推進したいオバマ政権。中国への「外圧」も視野に入れたその野心的戦略とは

2011年12月26日(月)15時07分
デービッド・ピリング(英フィナンシャル・タイムズ紙アジアエディター)、横田 孝(本誌編集長)

前のめり アジアでのアメリカの存在感を強めたいとオバマは考えているが(11月18日、バリ) Jason Reed-Reuters

 意外かもしれないが、米政府が世界で最も熱心に推進している一方で、アメリカ国内ではTPPはまったくと言っていいほど話題に上っていない。

 アメリカを含む9カ国が既に「次世代」の通商協定に向けた大枠の合意に達しており、12年末までの最終合意成立を目指す──11月12日、バラク・オバマ大統領がホノルルでそう表明するまで、アメリカ人の大半は「TPP」という言葉すら聞いたことがなかった。

 国内的な知名度が皆無な一方で、この10年間対テロ戦争と中東情勢に目を奪われてアジアや中南米で出遅れた米政府は、いまさらながらこの地域に焦点を移している。アメリカ政府にとって、TPP(環太平洋経済連携協定)は失地回復のための足掛かりの1つだ。その戦略は、中国を「外圧」で変えようとする側面も見え隠れするほど、野心的だ。

 一方で、国力低下にあえぐアメリカがアジア市場に活路を求めている以上、交渉での立場は若干弱くなる。米政府は自国の要求をかつてのようにごり押しできるのか。そして、国内の反対や参加国との隔たりを乗り越えられるのか──。

 米政府がTPP計画に踏み出したのは09年12月。このとき、ロン・カーク通商代表が議会の指導者に書簡を送り、「これまで以上に雇用を重視し、アメリカの競争力を強化し、通商協定の恩恵がすべての国民に行き渡るようにする」と表明していた。

 それなのになぜ、これまでTPPはアメリカ国内で注目されてこなかったのか。

 1つには、交渉参加国が貿易高の小さな国ばかりだったからだ(日本が参加すれば事情は大きく変わる)。アメリカ以外の8カ国──ブルネイ、チリ、ニュージーランド、シンガポール、オーストラリア、マレーシア、ペルー、ベトナム──を合わせても、アメリカの貿易高の5〜6%程度でしかない。

 これでは、議会や国民に対して、TPPでレベルの高い合意に達することがいかに重要かと納得させるのは難しい。もっとも、米政府としてはTPPを土台に、日本やカナダ、韓国、ブラジル、さらに将来的には中国などの主要貿易国も参加する大掛かりな通商協定を打ち立てたいと考えている。

「WTO2・0」への道?

 アメリカでTPPの影が薄い理由のもう1つは、通商協定そのものが一般的に不人気だという点にある。労働組合や世論全般、そしてかなりの議員が通商協定に拒絶反応を示しやすい。

 ジョージ・W・ブッシュ前大統領時代にアメリカがコロンビア、パナマ、韓国とそれぞれ2国間で署名した3つの自由貿易協定(FTA)は最近になってようやく議会で批准された。自動車産業の労働組合や議員の反発がそれだけ強かったのだ。

 オープンな通商協定を結べば双方の国に大きな経済的メリットがあると、ブッシュもビル・クリントン元大統領も国民に納得させようとした。相手国にアメリカ市場を開放し、それと引き換えにアメリカ企業のために相手国の市場を開放させる──そうすれば、輸入品の価格が安くなる上、輸出産業に雇用が創出される、という筋書きだった。

 そのもくろみは大きく外れた。問題は、近年アメリカの雇用状況が悪化していることだ。製造業を中心に、中流層の雇用が安定しない。特に08年のリーマン・ショック以降、失業率は10%近くまで上昇し、その後も9%台で高止まりしている。「上位1%」の高所得層がアメリカ全体の所得の4分の1を得るような社会になった。4分の1という数字は、25年前の約2倍だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独国防相、トランプ氏に謝罪要求 アフガン紛争巡る発

ビジネス

23日の円買い介入「考えにくい」と市場筋 日銀27

ワールド

EU加盟国、ロシア産ガス輸入停止を承認 ハンガリー

ワールド

中国外務省、春節休暇中の日本渡航自粛呼びかけ=新華
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰に地政学リスク、その圧倒的な強みとは?
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 5
    「外国人価格」で日本社会が失うもの──インバウンド…
  • 6
    「楽園のようだった」移住生活が一転...購入価格より…
  • 7
    「20代は5.6万円のオートロック、今は木造3.95万円」…
  • 8
    私たちの体は「食べたもの」でできている...誰もが必…
  • 9
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 10
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 4
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 5
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 6
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 10
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 7
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 10
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中