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モトローラ買収、グーグルの本音

2011年9月21日(水)12時49分
ファハド・マンジュー(スレート誌テクノロジー担当)

 投資回収の手段としては実に回りくどいやり方だ。現在、アンドロイド端末の売り上げはグーグルの直接の利益にはならない。端末で儲ける代わりに、無償でOSを配布することでより多くのユーザーに同社のサービスを利用してもらって広告収入を得る──例えて言えば、石油会社が自動車メーカーにエンジンを無料で供与し、結果としてガソリンへの需要が増えるのを待つようなものだ。

 グーグルはアンドロイドの開発費の上に、125億ドルもの買収費用をつぎ込んだ。少なくともこの投資分を賄うだけの利益を上げなければならない。

 容易な話ではない。グーグルの広告収入はアンドロイドユーザー1人当たり年間6㌦と試算されている。12年までには10ドルに増える可能性もあるという。ユーザー数全体で年間約10億ドルの収入だ。その額が増えたとしても、モトローラへの投資費用を回収するまでには長い年月がかかるだろう。まして利益を上げられるようになるのはもっと先だ。

ハードとソフトの融合

 ずいぶんと気長な戦略の一方で、グーグルにはもっと簡単に利益を上げる方法がある(実際にそうするかは別にして)。モトローラにグーグル独自の携帯端末を作らせればいい。

 これはアップルと同じやり方だ。推定によれば、iPhoneを1台売るたび約370ドルもの利益がアップルに転がり込む。アップルがスマートフォンで高収益を得ている理由は、主に2つある──そして、グーグルはモトローラ買収で同じ強みを得る。

 まず、ハードとソフトの融合。iPhoneのOSは特定のハード向けに設計されているため、どの機種を使っても同じユーザー体験ができる。新しいiPhoneを買う度に使い方を一から覚える必要がなく、消費者を囲い込める。

 もう1つが独占性だ。iPhoneは1年に1機種しか発売されない。結果的に注目度が高くなり、メディアやアップルファンがタダ同然で宣伝やマーケティングをしてくれる。

 グーグルが今のアンドロイド戦略を続けている以上、アップルのような成功を収めることはできないだろう。今のアンドロイド端末は玉石混交で、OSのイメージがいまひとつ定まっていない。

 しかしモトローラを買収したことで、アンドロイドに最適の高性能機種を作ることができるようになる。同時に、端末メーカーが低性能機種を開発するのも防げる。他社が水準を満たした端末を作らないのならば、グーグルはモトローラ製端末にアンドロイドOSの新バージョンを優先的に搭載する、と脅すこともできる。

 もっとも、強引なやり方をすれば逃げ出す端末メーカーも出てくるかもしれない。価格を上げれば、シェアの伸び率も鈍るだろう。

 しかし端末の販売で稼ぐ手段を手にしたのに、グーグルはそれをふいにするだろうか。モトローラの特許につぎ込んだ莫大な資金を無駄にはできないはずだ。

© 2011 WashingtonPost.Newsweek Interactive Co. LLC

[2011年8月31日号掲載]

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