最新記事

携帯ビジネス

モトローラ買収、グーグルの本音

大買収劇を演じたグーグルの狙いは特許権。巨額費用回収のために「アンドロイド携帯」を製造させるはずだ

2011年9月21日(水)12時49分
ファハド・マンジュー(スレート誌テクノロジー担当)

最強タッグ? モトローラに自社端末を作らせれば高収益が期待できる Brendan McDermid-Reuters

 マイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOは、ライバル企業の製品についてとんでもなく的外れな予想をする傾向がある。

 だから昨年、バルマーがグーグルの携帯端末向けOS「アンドロイド」の戦略をこき下ろしたときは、多くの専門家がその発言に取り合わなかった。当時、アンドロイドはマイクロソフトの携帯端末用OSのシェアを抜き、アップルのiOSにも迫る勢いだったから、バルマーはなおさら無視された。

 マイクロソフトとグーグルは、スマートフォン業界で似たような位置付けにある。両社ともスマートフォンを動かすOSは作るが、電話機そのものは作らない。自社ソフトを使ってもらうには、端末メーカーと提携しなければならない。大きな違いは、マイクロソフトは端末メーカーにライセンス料を求めたのに対し、グーグルはアンドロイドを無償提供したことだ。

 無料の製品にどう対抗するのか? そんな問いに対し、バルマーは複数の取材でこう語っている。「アンドロイドはタダなんかじゃない」。バルマーの理屈はこうだ。アンドロイドは複数の特許を侵害している。結果、アンドロイドで携帯を作るメーカーは、マイクロソフトを含めた特許保有企業にライセンス料を払うことになる──。

 IT業界では特許侵害訴訟など珍しくない。複雑な新技術を開発すれば、必ずと言っていいほど複数の特許に抵触することになる。だからIT大手は特許訴訟の費用を回避するため、クロスライセンス契約で相互に特許使用を認め合う。だがグーグルは比較的新しい企業。交換するほど多くの特許を持っていない。

 アンドロイドを特許訴訟の嵐から守るためにグーグルが打った手──それが、米通信機器大手のモトローラ・モビリティを125億ドルで買収する計画だ。

危うい「オープン」の理想

 モトローラはアンドロイドを搭載した人気機種をいくつか作っているが、大した利益は上げていない。つまりハードウエア部門はおまけのようなもので、グーグルの本当の狙いはモトローラが保有する1万7000件に及ぶ特許権だ。

 要するに、意外にもバルマーは正しかったのだ。アンドロイドはタダではない。それどころか安くもない。モトローラの買収費用は、グーグルの2年分の利益に匹敵する。よほどの見返りが期待できなければ、いかにグーグルといえどもそれだけの大金をつぎ込めないはずだ。

 となると、この買収はグーグルのアンドロイド戦略が大きく変わる転機になるかもしれない。

 アンドロイドは自由に改良でき、オープンである半面、無秩序でもある。端末メーカーは高性能の端末にも安くて劣悪な端末にもグーグルのOSを搭載できるため、アンドロイド端末はピンきりだ。

 この買収で、グーグルは端末メーカーに対して強い影響力を発揮できるようになった。端末メーカーがむやみに新機種を発売することを牽制できるし、必然的に性能の向上にもつながる。

 もちろん時間はかかる。グーグル幹部は、今回の買収でアンドロイドの位置付けが何ら変わることはないと強調している。モトローラがグーグル本体から分離したまま事業を続けるのも、アンドロイドの無償供与を受ける上でモトローラが他の端末メーカーより有利にならないようにするための配慮だという。グーグルの理想はあくまで「オープン」というわけだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

鉄鋼関税、2倍の50%に引き上げへ トランプ米大統

ビジネス

アングル:トランプ関税、世界主要企業の負担総額34

ワールド

トランプ米大統領、日鉄とUSスチールの「パートナー

ワールド

マスク氏、政府職を離れても「トランプ氏の側近」 退
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中