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大統領演説

オバマはBPにも石油業界にも弱かった

原油流出事故と新エネルギー政策で指導力を見せるためのテレビ演説だったのに、CEO的資質の欠如ばかりが目立った

2010年6月17日(木)18時17分
ダニエル・グロス(ビジネス担当)

期待はずれ 何も手が出せないなら、なぜわざわざ大統領執務室から演説なんかしたのか(6月15日) Reuters TV-Reuters

 6月15日、ホワイトハウスの大統領執務室でバラク・オバマ米大統領が行った原油流出事故に関するテレビ演説を見て、ジョージ・W・ブッシュ前大統領を懐かしく思った人も多いはずだ。MBA(経営学修士)をもち企業経営の経験もあるブッシュの「CEO的な大統領」のイメージが、懐かしく思い出されるのだ(実際にその手腕があったかどうかは別の話だが)。

 メキシコ湾で英石油大手BPの石油掘削施設で爆発事故が起きた4月20日以来、BPとその失言続きのCEO(最高責任者)トニー・ヘイワードには先見の明もマネジメントスキルもなく、まったく無能であることが明らかになってきた。

 大統領執務室での演説が計画されたのも、今ではオバマ自身がこの事態を完全に掌握していることを示すため。有能なCEOとして、責任の所在を明らかにし、原油の流出を止め、事態収拾と再発防止に向けた明確な戦略を打ち出して見せるためだった。

BPへの脅し文句も遠慮がち

 だが、オバマが伝説のCEOジャック・ウェルチのような豪腕でBPを締め上げると期待していた人々は失望した。オバマの演説はBPの株価を奈落に突き落とすどころか、後で振り返れば何も起きなかったのと同じことになりそうだ。

 確かにオバマの演説には、イギリスのチャーチル元首相のような指導力を感じさせる言葉が詰まっていた。「どんなに時間がかかっても、すべてを動員してこの石油流出事故と戦う。生じた被害については、BPに補償させる。そして、メキシコ湾沿岸部とそこで暮らす人々がこの悲劇から立ち直るために必要なあらゆる支援をする」

 BPへの穏やかな警告も盛り込まれていた。翌16日に「BP会長と面会し、同社の無謀な行為によって被害を被った労働者や企業経営者への補償に必要な資金を取り置くよう伝える」と約束したのだ。

 だが、この脅し文句に大した効果はない。BP会長が責任を負う相手は株価下落に苦しむ同社の株主であって、アメリカ大統領ではない。そもそも、イギリスの民間企業の会長に資金を留保するよう指示する権限が、オバマにあるのだろうか。その上世論も投資家も、BPが補償に応じることはすでに織り込み済みだ(だからこそ、BPの株価は事故後半分になった)。
 
 CEOらしく権限委譲をする場面もあった。例えば、原油除去と再発防止策を実施する責任者数人の名前を挙げた。エネルギー庁長官のスティーブン・チューが率いるチームと、「(湾岸の)4つの州で原油の封じ込めと清掃にあたる3万人近い人々」にも言及した。各州知事には州兵の召集を許可し、「迅速に行動に移らせるよう」求めた。

 だが今のところ、原油流出を止めるという最も肝心の仕事についてはBPに外注したままだ。何度も失敗してきたその仕事を、なぜ今もBPに請け負わせたままなのか、オバマは説明しなかった。

長期的理念は立派だが具体策は?

 何よりCEOにあるまじきことを言ったのは、演説の終わりごろだ。石油の新規採掘が困難な時代を迎えたこと、原油依存を改めるべきであること、オバマ政権がいかに原油依存からの脱却を急ぐ政策を提言してきたことを語ったあたりはよかった。「エネルギーと気候変動に関する強力で包括的な法案」が下院を通過したことにも触れ、「何もしないというアプローチだけは受け入れられない」と誓った。

 だがその先、気候変動法案の審議を引き延ばすだけで何も行動を起こそうとしない上院議員たちに、呼びかけることさえしなかった。アメリカの長期的な革新力を信じると雄弁に語る一方で、短期的な具体的対策については曖昧な発言に終始した。

 オンライン雑誌スレートのジョン・ディッカーソンが指摘するように、炭素税の導入やガソリン税の大幅な引き上げ、キャップ・アンド・トレード方式の導入など、政治的な反対は強いが避けて通れない政策についてはほとんど触れずじまい。まるで一番肝心の結論部分が欠けたパワーポイントのプレゼンのようだった。

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