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iPadフィーバーは本物だ

ありそうでなかったシンプルな操作、カッコいいボディ──消費者のニーズをアップル以上に理解している企業はない

2010年4月6日(火)17時50分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

ゲット! 発売初日にニューヨークのアップルストアで買った人(4月3日) Jessica Rinaldi-Reuters

 アップルのiPadが発売された4月3日、私の妹夫婦は3台買った。2台は10歳と8歳の息子用、もう1台は妹自身のためにだ。彼女の夫も今週、自分用に買うつもりだという。ジョージア州の沿岸でゴルフ三昧の引退生活を送っている75歳の父までもが、私に電話を掛けてきて自分も買うべきかと聞いてきた。

 それでもあなたは、やはりiPadなんて大したことないとお思いだろうか。ちょっと待ってほしい。

 確かにテクノロジーおたくは、iPadが複数の処理を同時に行えないことや、アップルがアドビ社の動画ソフト「フラッシュ」の搭載を拒んでいることに不満を漏らす。インターネット批評家は、iPadが他社のソフトウエアを受け入れようとしないことはウェブ世界の自由な精神に反すると嘆く。

 だが、ある層の人たち──おたくではないが最新で最高のテクノロジー玩具を買える金持ちにとっては、iPadは一種のデジタル天国だ。この種の人たちは想像以上に多い。そして、彼らのニーズと欲望をアップル以上に理解している会社は地球上のどこにも存在しない。

大半のパソコンは複雑すぎる

 だからこそ、アップルはiPadを発売初日に30万台売り、アナリストたちは1年目の販売台数を400万台と予想しているのだ(初日は70万台売れたと当初報じられたが、それは間違い。だが30万台でもすごい数字で、iPhoneの07年の発売初日の販売台数より多い)。

 もちろん、今の人気はiPadの中身に関係ない空騒ぎに過ぎないという声もある。だが、そうではない。

 アップルは人々がシンプルなものを切望していることに気付いた。だから驚くほど簡単に操作できる製品を作り出した。そのこと自体がとてつもない成果だ。音楽家の友人が私にこう言ったことがある。簡単なことを行うのは複雑なことを行うよりはるかに難しいことがある、と。

 人々は何年もの間、少ない機能でもっと簡単に使えるソフトウエアを作ってくれと、マイクロソフトをはじめとするテクノロジー企業に叫び続けてきた。

 だが業界は新しい機能をどんどん積み上げていった。その結果、普通のパソコンはほとんどのユーザーにとって、複雑極まりなく不安定極まりない代物になってしまった。機能が多すぎて、フリーズしたり強制終了したり故障したりするリスクが高まった。

 パソコンが動かなくなったら、誰に直し方を聞けばよいのか。たとえ直し方を知っていたとしても、そんなことに時間を使いたいだろうか。

バーチャル・キーボードは最悪だが

 iPadは、とにかくカッコいいハードウエアでもある。こう言うとばかにされるかもしれないが、外見はやっぱり大事だ。それは家電に限らない。ポンティアックの「アズテック」という車を覚えているだろうか。確かにタイヤが4つとエンジンが1つ付いていたが、外見がダサ過ぎて誰も買わなかった。

 実は、大半のテクノロジー企業はアズテックのような製品を作っている。残念だが本当の話だ。人々はうんざりしている。そんななかアップルは、BMWやレクサス、メルセデス・ベンツを乗り回し、サブゼロやガゲナウ、ラ・コルニュのキッチン用品を使うような消費者を取り込もうとしている。

 iPadには欠点もある。画面上のバーチャル・キーボードで文字を入力するのは最悪だ。ほかに、Wi-Fi(無線LAN)が当てにならないといった声や、アンテナが小さ過ぎて製品リコールもあり得るという声も聞こえてくる。アップルがこれほど明らかなミスを犯すとは思えない。これについては時間がたてば分かるだろう。

 私は1月の製品発表イベントでiPadを使ってみた。だが、発売前にレビュー用に製品を渡された数少ない幸運なジャーナリストの1人ではない。だから私もみんなと同じように買うしかない。

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