最新記事

ネット検索

グーグル「中国撤退」の不可解な論理

グーグルは中国でのサイバー攻撃などを理由に撤退をちらつかせているが、これは誤った理由に基づく誤った行動ではないか

2010年1月14日(木)16時32分
エフゲニー・モロゾフ(米ジョージタウン大学外交研究所客員研究員)

謝謝 グーグル中国法人のオフィス前にはユーザーが持ち寄った花が飾られた(1月13日、北京) Jason Lee-Reuters

 テクノロジー系ブログ世論の大勢と違って、私はインターネット検索最大手のグーグルが中国政府に突きつけた「最後通牒」にあまり感心していない(グーグルは1月12日、検閲なしでの検索サービスが認められなければ中国から完全撤退する意向を示した)。

 もちろん、どんな企業だって過ちを犯す。グーグルの経営陣は、検閲を受け入れて中国に進出するという自分たちの決断が大失策だったことに気づいたのかもしれない。過去の過ちを正す権利は彼らにもある。

 だが、理由として「中国の人権活動家のGメール(グーグルの電子メールサービス)のアカウントに対するサイバー攻撃」というメロドラマ的な言い訳を掲げるのはいかがなものか。

 自分たちは中国政府を信頼していたとでも言いたいのだろうが、そんな話は説得力に欠ける。実際に被害に遭うまで、中国の当局者はサイバー攻撃など思いつきもしない善人だと考えていたなんて話が通用するとでも?

 世界のほぼあらゆる国で悪質ハッカーによるグーグルへのサイバー攻撃が発覚したとしても私は驚かない。インターネット企業にとって、サイバー攻撃が起きる可能性など織り込み済みのはずだ。グーグルはサイバー攻撃が起きたすべての国から撤退するとでも言うつもりなのだろうか。

4年前の主張はどこへ行った

 グーグルは中国への検閲つきの進出を、自分たちは一種の公共サービスを提供しているのだからと言って正当化した。

「検索結果を削除することはグーグルの使命に反するが、何の情報も提供しないことはもっと使命に反する」というのが、進出を発表した2006年1月時点での同社の主張だった。この言い分と撤退(中国側がグーグルの圧力に屈することはないとして)との整合性を、同社はどう取るつもりなのだろう。

 もしグーグルが中国のユーザーのためのセキュリティを確保できないことを言い訳にするなら、同社のダメっぷりが明らかになったわけだからすべての国から撤退すべきだ。

 一方でもし、中国進出に対する倫理的な考えを完全に転換し、検閲は悪でありグーグルの使命に反すると考えるようになったというのなら、今回の決断をセキュリティの問題に帰して何の意味があるのだろう。

 私は現在の状況を(東欧出身の人間らしい)うがった見方でこう捉えている。グーグルは悪くなりつつあるイメージを一新するための、肯定的な宣伝材料を必要としていたのだ(プライバシーに対する人々の懸念が高まっているヨーロッパでは特に、グーグルの企業イメージは悪化しつつある)。

 メディアからは非常に肯定的に大きく取り上げられるだろうし、経営にもそれほど大きくは響かない(中国におけるグーグルの市場シェアは約30%)から、中国向け事業は格好のスケープゴートなのだ。

 こう考えれば、セキュリティの問題を言い訳にしたのも分かる。撤退の真意を詮索されずにすむ最も簡単な方法だったのではないか。

 それに中国ハッカーによる全面的サイバー戦争の脅威を強調すれば、アメリカのメディアや政治家の受けも非常にいい。アメリカ世論に向けてテロ関連の話題(『もしテロリストがオバマのメールを盗み読んだら?』)を提供するのに今ほどいいタイミングはない。

こんなに歓迎されるのはなぜ?

 ところでグーグルが中国で検閲を受け入れたのは間違っていたと考える人々が、今回の動きでいきなりグーグル支持に回ることはあるのだろうか。私はそれはないと考える。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

豪GDP、第2四半期は前年比+1.8%に加速 約2

ビジネス

午前の日経平均は反落、連休明けの米株安引き継ぐ 円

ワールド

スウェーデンのクラーナ、米IPOで最大12億700

ワールド

西側国家のパレスチナ国家承認、「2国家解決」に道=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 5
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 10
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中