最新記事

FRB

バーナンキ再任批判の落とし穴

2009年12月21日(月)16時15分

 全米12地区の連邦準備銀行の中には、警告を出し始めた人もいる。フィラデルフィア連邦準備銀行のチャールズ・プロッサー総裁はこう語る。「(FRBは)1年近く、FF金利をほぼ0%に維持している。莫大な流動資金の流入を制限するために適切な処置を取らなければ、インフレ率は受け入れがたいレベルまで上がりそうだ」

 一方で、FRBが失業問題に取り組むよう圧力をかけるエコノミストもいる。サンフランシスコ連邦準備銀行のジャネット・イェレン総裁は11月、あまり早期に金利を上げないようクギを刺した。「もちろんある時点で、我々は金融引き締めを行う必要が出てくるだろう。しかしそのときが来るまでは、雇用創出に必要な金融緩和を行わなければならない」

 著名エコノミストたちは、失業問題について異例の緊急対策を続けるようFRBに求めている。「量的緩和」を拡大する、つまり経済に直接資金を投入するのだ。そうした主張の筆頭に立つのが、FRBの元研究員で現在はピーターソン国際経済研究所にいるジョセフ・ギャグノンと、ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマンだ。FRBは政府の刺激策が不十分であることを認め、2兆ドル規模の量的緩和を行うべきだと彼らは主張する。これはインフレを招くかもしれないが、企業活動を支え、ひいては雇用を拡大させるというのだ。

バーナンキ「否決」でも政策は変わらず?

 バーナンキはまだ自分の手の内を見せていない。ただし、「長期にわたって」金利を抑えるつもりだと言い、どちらかというと緩和策に傾いていると示唆する。「(FRBが)今以上の緩和策を取るとは考えにくい」と、アメリカン・エンタープライズ研究所のケビン・ハセット経済政策研究部長は言う。しかし「FRBはこのところ異例の政策を取ってきた。だから、その行動を監視する必要がある」。

 最終的に議会がバーナンキの再任を認めなかった場合(その可能性はほとんどないが)、ホワイトハウスの経済顧問ラリー・サマーズ、大統領経済諮問委員会(CEA)のクリスティーナ・ローマー委員長、サンフランシスコ連邦準備銀行のイェレンなどが後任として考えられる。しかし彼らもバーナンキと同じような政策を取る可能性が高いと、FRBに詳しい専門家たちは指摘する。

 バーナンキ再任をめぐる政治論争は、基本的には後ろ向きの議論だ。彼の最大の失敗(住宅バブルを見逃したこと)と、最大のギャンブル(金融救済策の実施などFRBの権限拡大)はすでに過去の話。それよりも議会とFRBウォッチャーは、差し迫った経済問題のほうに焦点を合わせるべきだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB議長、QT停止の可能性示唆 「数カ月以内」に

ビジネス

米国株式市場=まちまち、米中対立嫌気 銀行株は好決

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、米中通商懸念が再燃

ビジネス

トランプ氏、中国との食用油取引打ち切り検討
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 5
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 6
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 7
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 8
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 10
    あなたは何型に当てはまる?「5つの睡眠タイプ」で記…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中