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バーナンキ再任批判の落とし穴

FRBの権限拡大やバーナンキの危機対応能力に疑念を募らす人々が忘れている肝心なこと

2009年12月21日(月)16時15分

分かれる評価 17日に米上院銀行委員会で再任が承認されたバーナンキだが
Larry Downing-Reuters

 12月17日、米上院銀行委員会はベン・バーナンキFRB(米連邦準備理事会)議長の再任を、16対7の賛成多数で承認した。年明けに上院本会議でも承認されれば、再任が正式に決まる。

 しかし賛成16に対して反対7と、バーナンキ批判が相当あることも事実だ。彼は08年の金融危機の本格化を認識できず、危機を過小評価し、政府の十分な監視を受けることなくFRBの権限を大幅に超える行動を取ったというのだ。

 その批判は党派を超え、共和党右派のジム・バニング上院議員(彼は、バーナンキは「倫理が欠如している」と言う)やジム・デミント上院議員から、自称社会主義者で無所属のバーニー・サンダース上院議員まで広がっている。

 一方、自由主義者のロン・ポール下院議員は、FRBの金融政策に対する議会監査を可能にする連邦準備制度透明化法の成立に成功。300人以上の共同提案者がいる同法は、11日に下院で可決された。上院でもサンダースが提案した同様の法案に30人の共同提案者が集まっている。

 この反バーナンキ感情は、ワシントンだけに留まらない。世論調査では、アメリカ人の8割近くがFRBへの議会監査を支持している。確かに、監査すべきことは多い。この1年で、FRBは単に利率を定めたり銀行を監督する以上のことを行ってきた。バーナンキはFRBによる大規模な金融救済策を推し進め、それに対する外部からの監視に抵抗。2兆ドルの緊急融資の受け手がどの金融機関なのか明らかにすることを求められながら、これを拒否してきた。このため政治家など多くの人がバーナンキの再任に反対している。

緩和か、引き締めか、飛び交う警告

 バーナンキをめぐる論争のせいで、重要なマクロ経済政策----FRBはどうやって失業率を減らすのか、そのためにはインフレのリスクをどの程度まで取るべきのか──についての議論が置き去りにされている。

 議会に代わって議論を戦わせているのが、FRBのエコノミストとその反対派だ。彼らは、物価を安定させて適度なインフレを保ち、失業率を下げるというFRBの権限をもって、不調な経済を救う方法について細かく論じている。

 手段は限られている。現在、政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利はゼロに近く、景気刺激策としてこれ以上金利を引き下げることは不可能だ。インフレを抑制し、さらなる経済悪化に備えるためにFRBはある時点で金利を引き上げざるを得ないだろう。現時点では、企業と債券市場がパニックに陥ることを警戒して金利を低く抑えている。

 一方、現在の失業率は2桁台。景気後退によってアメリカは800万以上の雇用を失った。本来なら、議会は公的資金を使って人々を雇用し、問題解決にあたるべきだろう。しかし政府はすでにウォール街の金融機関に膨大な資金を注入している。たとえ予算が用意できるとしても、ホワイトハウスと議会にはさらなる大型救済策を押し通すだけの政治力はないだろう。

 このためFRBは低金利を維持している。インフレを招きかねないが、通貨供給量の増加で企業が雇用を増やすことを期待しているのだ。

 過去のFRB議長はインフレに重点を置く傾向があった。「まともなFRB議長なら、インフレ問題については保守的な姿勢を取る」と、オレゴン大学オレゴン経済フォーラムの責任者ティム・ドュイは言う。「デフレを防ぐのは簡単だ。しかしいったんインフレになったら、止めるのは非常に難しい」

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