最新記事

米企業

国務省がシェブロンに「アカデミー賞」の怪

環境汚染で270億ドルの損害賠償訴訟に直面する石油大手が「最高企業賞」の最終候補に残り、悪行をカネでチャラにする戦略が功を奏したのではないかと疑惑の的に

2009年10月15日(木)18時29分
ジョシュ・ローギン

国務省を買収? 毀誉褒貶相半ばする石油大手シェブロン Fred Prouser-Reuters

 米国務省は今月、米石油大手シェブロンが同省の「最高企業賞」の最終候補の一社に残ったと発表した。海外では環境汚染で批判を浴びているシェブロンになぜ米政府が褒賞を与えるのか、疑問視する声が上がっている。

「これは国務省版のアカデミー賞だ」と、国務省の経済・エネルギー・企業局で経済分析と広報外交を担当するナンシー・スミス・ニスリーは10月13日、企業やNGO(非政府組織)との会合で語った。

 シスリーによれば、90年代に当時のマデレン・オルブライト国務長官が創設したこの賞は、「企業の社会的責任を重視することで真の善意を奨励してきた。母親のような役割で、誰もが賛同する主旨のものだ」と語った。

 批判派も、シェブロンがフィリピンの地熱発電プロジェクトに貴重な貢献をしていることは認める。一方エクアドルでは、最大270億ドルの損害賠償を求める訴訟の被告でもある。数十年間にわたり、何百カ所もの場所で汚染排水を垂れ流し続けたことによる健康被害と環境汚染に対する訴訟だ。

 シェブロン側は、エクアドルで操業したことはないと言っている(実際、操業していたのはエクアドルの国営石油会社ペトロエクアドルと組んだテキサコだ。シェブロンは2001年にテキサコを買収した)。

 シェブロンの広報担当者ケント・ロバートソンは当ブログに対し「この訴訟は16年以上前から続いているが、原告側のアメリカ人弁護団は彼らの言い分を証明するに足る証拠を何も出せていない」

ヒラリーの呼びかけに500万ドル

 ニューズウィークなどのメディアの報道によれば、批判派の言い分はそれだけではない。シェブロンは、海外での無責任な活動に米政府が介入するのを避けるため、大金を投じて国務省に取り入ろうとしているという。

 たとえばシェブロンは先月、ヒラリー・クリントン国務長官の直々の呼びかけに応え、2010年の上海万博にアメリカのパビリオンを出展するための資金として500万ドルを拠出した。

 そして今年の夏には、パキスタン・アフガニスタン問題担当のリチャード・ホルブルック特別代表の名を冠した賞を受賞した。ホルブルックは以前、エイズ対策を支援するNGO、HIVとエイズ世界経済人会議(GBC)のトップを務めていた。報道によればシェブロンは、このGBCにも3000万ドルを寄付している。

 シェブロンは目下、エクアドルでの訴訟をオバマ政権に仲裁してもらうべくロビー活動を行っていると伝えられる。国務省は、シェブロンを模範的な企業と称える一方で、同社の悪行を擁護する立場になりかねない。

「よそでいくら良いことをしても、土地を汚染し人々の暮らしを破壊した事実をチャラにはできない」と、エクアドル訴訟の原告側弁護士、カレン・ヒルトンは言う。「シェブロンは、法的・倫理的な責任を負うべく行いを正し、良い企業市民になろうとする代わり、過去最高水準の利益で名誉を買おうとしている」

 シェブロンのロバートソンは最高企業賞について、「フィリピンでのシェブロンの活動の成果が認められ、栄えある最終候補に選らばれたことは喜ばしい」と言う。

「残念なのは」と、彼は続ける。「自分たちの狭量な目的を達成しようとする人たちの根拠もない批判を取り上げるために、他の素晴らしい最終候補企業の偉業がもっと取り上げられないことだ」

Reprinted with permission from "The Cable", 15/10/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

関税の影響「予想より軽微」、利下げにつながる可能性

ワールド

イラン、カタールの米空軍基地をミサイル攻撃 米側に

ビジネス

米総合PMI、6月は52.8に低下 製造業の投入価

ワールド

対イラン米攻撃の「合法性なし」と仏大統領、政権交代
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり得ない!」と投稿された写真にSNSで怒り爆発
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 6
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 7
    EU、医療機器入札から中国企業を排除へ...「国際調達…
  • 8
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 9
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 10
    【クイズ】次のうち、中国の資金援助を受けていない…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 9
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 10
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中