MSヤフー提携はほとんど無意味
ヤフーはマイクロソフトに利用された負け犬だ。MS対グーグルの本番がこれから始まる
やっとゴールイン 両社の痴話喧嘩にはうんざりさせられたが、それもこれでおしまいだ(写真はMSがヤフーへの買収提案を撤回した08年5月のもの) Joshua Lott-Reuters
数年前、私はあるカップルを知っていた。いつも結婚について話しながら決断ができない。数カ月で終わると思った彼らのばかばかしいソープオペラ(メロドラマ)に、結局何年も振り回された。
彼女は結婚したくて彼のプロポーズを待っていた。待ちくたびれると、クリスマスまでに結婚を申し込んでくれなければ別れると最後通牒を突き付けた。彼は単なるはったりだと決め付けてクリスマスは過ぎ去ったが、彼女は別れなかった。
一方、彼も苦しんでいた。結婚はしたいが、相手はほかの女性のほうがいいのかもしれない、いや、彼女こそ自分にぴったりかもしれない......。
彼女はついに2度目の最後通牒を出し、今度は彼も折れて2人はようやく結婚した。だが、その頃の私はもうこのぶざまな見せ物に飽き飽きして、彼らの幸せを喜ぶ気などなくしていた。ただ、決着がついてせいせいしただけだ。
マイクロソフトとヤフーが7月29日に発表した10年間の業務提携についての私の思いも、これとまったく同じだ。両社はこれまでさんざんデートや浮気、別れと復縁を繰り返してきて、もはや面白くもなんともなくなっていた。何より、私は両社のごたごたをブログで読むのにうんざりした。終わってくれたことがただただうれしい。
マイクロソフトとヤフーにおめでとう。神の祝福を! だから今度こそ、頼むから、もう私たちを放っておいてくれ!
買収に徹底抗戦した挙げ句
誤解しないでほしい。私も最初は興奮した。08年1月、マイクロソフトはヤフーに450億ドルの買収を提案し、ヤフーが応じなければ敵対的買収も辞さない構えを示した。
この無惨な買収劇も延々と尾を引いた。買収額は上乗せされ、乗っ取り屋のカール・アイカーンがヤフー株を大量取得して飛び入りし、劇にはサーカスの出し物のような刺激も加わった。
だがヤフーの共同創業者で当時CEO(最高経営責任者)だったジェリー・ヤンは、たとえ株主がマイクロソフトとアイカーンを支持しても、ヤフー社員と一丸となり、あらゆる手段を使って提携を失敗させる意思表示をした。
マイクロソフトは買収提案を取り下げ、ヤフーの株価は急落した。ヤフーはグーグルと手を結ぼうとしたが、独禁当局が待ったをかけた。ヤンはお払い箱になり、ソフト会社オートデスクの元CEO、キャロル・バーツが新CEOに迎えられた。手ごわい交渉相手だが、彼女の最大の強みはヤンと違ってヤフーに感情的に固執していなかったことだ。そして彼女は、提携を実現した。
提携の内容はこうだ。ヤフーは自前の検索エンジンを使う代わりに、マイクロソフトの新しい検索エンジン「Bing(ビング)」(非常によくできている)を使う。検索結果と一緒に表示させる広告も、マイクロソフトの検索広告配信システムが管理する。
両社のネット検索市場での世界シェアは、合わせて30%になる(現在はヤフーが20%、マイクロソフトが8%。これまでは65%のシェアを握る仇敵グーグルが圧倒的だった)。
両社の発表には、ヤフーのメンツをつぶすまいという苦心の跡が見える。ネット広告を売るのはヤフーのセールス部隊の仕事とされている。自前の検索エンジンを使わなくなるヤフーは、開発コストを削減できる。ヤフーのサイトから上がった広告収入からは、マイクロソフトが大きな分け前をヤフーに支払う。ヤフーは、この提携で年間の営業利益は5億ドル増えると言っている。
だが、本当のことを言おう。ヤフーは負け犬だ。彼らは弱くて無防備で、マイクロソフトに従う以外に選択肢はなかった。マイクロソフトは検索市場ではまだ勢いを得られていない。だが、彼らには勢いより強い武器がある。現金だ。ヤフーとの提携で、マイクロソフトは本当の意味でグーグルの競争相手といえる地位を獲得した。