最新記事

「異端児」の復活はまず見かけから

アップルの興亡

経営難、追放と復活、iMacとiPad
「最もクールな企業」誕生の秘密

2010.05.31

ニューストピックス

「異端児」の復活はまず見かけから

ジョブズ復帰で、ベージュ色の箱ばかり作らなくてよくなった!

2010年5月31日(月)12時09分
ジェニファー・タナカ

 隠しごとをするのは、それが会社にとっていかに重要かを示す何よりの証拠。iMac(アイマック)が世に出た今、アップル社のインダストリアルデザイン部門は「別の仕事」にかかりきりになっていると、同部門のディレクターを務めるジョナサン・アイブ(31)は言う。

 だがその「仕事」が何なのか、アイブは教えてくれない。何人のデザイナーが彼の下で働いているのかも秘密だ。産業スパイを警戒するアップルの重役からは、デザイン部門のスタジオがどこにあるかは記事に書かないでくれと言われた。

 この9カ月間、アイマックを大きな布で隠しながら開発したおかげで「すっかり被害妄想になった」と、アイブは言う。先週の発表までは、妻にさえ製品を見せなかったという。

ジョブズの復帰で方針転換

 アイマックを見るかぎり、アップルは再び製品のデザインを重視しはじめたようにみえる。だが昨年の夏、同社のデザイナーたちは会社を辞めたいと真剣に思っていた。「我慢の限界だった」と、アイブは言う。

 ジョン・スカリーやマイケル・スピンドラー、ギル・アメリオといったCEO(最高経営責任者)の下で、彼らは欲求不満がたまる一方だった。なんの変哲もなく、市場の受けも悪い「ベージュ色の箱」ばかり作らされていたからだ。

 デザイナーたちは「精神衛生」のために、見栄えはいいが製品化されそうにないモデルを作ったりした。アイブは携帯情報端末「ニュートン」の初期モデルや、マッキントッシュの発売二〇周年記念モデルをデザインして憂さを晴らした。

 だが昨年7月、アメリオが辞任し、共同創立者のスティーブ・ジョブズがアップルに帰ってきた。「僕らがアップルに入社した理由が突然復活した」と、アイブは言う。

人々の心に訴える製品を

 会社がデザインを重視しはじめた理由がジョブズにあることは、アイブもわかっている。そのことに、彼は穏やかでいられない。ジョブズの肩書は「暫定CEO」であり、いつまた会社を去るともかぎらないからだ。

 だが今のところ、アイブは「製品の感情的な側面」を理解する経営者の下で働けることに満足している。アイマックの開発にあたっては、マシンの計算処理速度や市場シェアではなく、製品を「人々にどう感じてもらいたいか」、あるいは製品が「心のどの部分に訴えるか」を重点的に話し合ったという。

 アイマックが画期的なのは、製品化の過程でさまざまなグループが協力したことだとアイブは強調する。たとえばマウスのドーナツ型ボードは、エンジニアとデザイナーが共同で作り上げたものだという。

 シンプルで遊び心にあふれ、人間的な製品に仕上がったのはそのせいだろう。本体の緑がかったブルーは、オーストラリア出身のデザイナーが故郷のビーチを思い出すと語ったことから、その地名を取って「ボンダイブルー」と名づけられた。

 人々に愛される製品を作ろうとするアイブの決意は、こうしたことからもうかがえる。「デザイン部門の全員が初心に帰ってやっていこうと思っている」と、アイブは言う。

 ただしデザインチームの詳細については、やはり何も教えてくれない。「ヘッドハンターがいるからね」と、彼は言った。

[1998年5月20日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米最高裁、シカゴへの州兵派遣差し止め維持 政権の申

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、GDP好調でもFRB利下げ

ワールド

米政権の「テックフォース」、約2.5万人が参加に関

ビジネス

カナダ中銀、次の一手「見通し困難」 不確実性高い=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中