最新記事

対テロ戦争はイエメンへ

ウラ読み国際情勢ゼミ

本誌特集「国際情勢『超』入門」が
さらによくわかる基礎知識

2010.04.19

ニューストピックス

対テロ戦争はイエメンへ

イエメンのサレハ大統領は飛び切り魅力的な同盟相手ではないが、アルカイダ掃討に不可欠なパートナーだ

2010年4月19日(月)12時04分
ケビン・ペライノ(エルサレム支局長)、マイケル・ハーシュ(ワシントン支局)

イエメンのアリ・アブドラ・サレハ大統領は、かつてイラクの独裁者サダム・フセインを英雄としてあがめ、「小サダム」と呼ばれていた人物。アメリカにとって、飛び切り魅力的な同盟相手とは言い難い。

 サレハはインタビューの間、前かがみの姿勢で椅子に座り、質問されるたびに左右の膝をぶつけ合っていた。その様子はまるで退屈した少年のようだ。何か気の利いたことを言った(と本人が思った)ときは、にやりと笑って側近にウインクを送り、聞いていたかどうかを確かめる。

 それを除けば、サレハは一生懸命に他人を喜ばせようとするタイプではない。たとえ相手が約7000万ドルの軍事援助を与えてくれる米政府の当局者でも同じことだ。

 この軍事援助は近々、少なくとも2倍に増額される可能性がある。だがアメリカ側がどんな助言を口にしても、サレハは好きなようにやり続けるはずだ。米政府との協力に関する質問をされると、決まってこう言い放つ。「われわれは君たちの使用人ではない!」

 それも無理はない。中東の指導者にとって、アメリカの手先と思われるのは自殺行為だ。それに中東では、やや芝居がかった横柄な態度がものをいう。

破綻国家になる恐れも

 バラク・オバマ米大統領にとって最悪のシナリオは、イエメンが第2のパキスタンやアフガニスタンになることだ。この2国では、イスラム過激派と戦う米軍の戦術が現地住民の恨みを買い、新たな「聖戦士」を生み出す結果を招いたように見える。それでもオバマ政権はサレハが自国民の信頼を失う危険性を承知の上で、イエメン政府との協力を強化する計画だ。

 昨年12月25日にノースウエスト航空機爆破テロ未遂事件を起こした若いナイジェリア人は、イエメンで訓練を受け、爆発物を渡されたと話している。事件後、イエメンのアルカイダ系組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」の動きを探っていた米政府当局は、驚くべき情報をつかんだ。

 AQAPはパキスタンにいるアルカイダの「本体」と直接つながりがあり、現時点で「最も危険な(系列組織の)1つ」だと、テロ対策担当のジョン・ブレナン米大統領補佐官は記者会見で言った。別のオバマ政権高官も、「パキスタンの部族地域とイエメンの間に多数の通信があったことをつかんでいる」と指摘した。

 イエメン政府は時々イスラム過激派の掃討作戦を行っているが、成果はほとんど上がっていない。イエメン国内に浸透したアルカイダの勢力は、治安部隊の内部にも食い込んでいる。サレハ政権の腐敗のせいもあって、イエメンの経済状況は悪化するばかり。それと同時にアルカイダの存在感は増している。

 しかもサレハの取り巻きの一部は、過激派に手を貸すような行動に走ることがある。イエメンでアルカイダが復活するきっかけになった06年の脱獄事件は、政権内部の人間が関与したといわれている(サレハとのつながりを直接示す証拠はない)。

 ジョセフ・リーバーマン上院議員(無所属)のような米議会のタカ派は、イエメンがイラクやアフガニスタンと同じ道を歩み、「明日の戦争」の舞台になる可能性を盛んに警告している。それでもオバマから見て、イエメンにはサレハ以外に頼れる相手がいない。昨年9月、オバマが全面支援を約束する書簡をサレハに送ったのは、そのせいでもある。

 イエメンはアラビア半島の南端部に位置する貧しい国だ。あるイギリス政府当局者は「海辺のアフガニスタン」と呼ぶ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米農場の移民労働者、トランプ氏が滞在容認

ビジネス

中国、太陽光発電業界の低価格競争を抑制へ 旧式生産

ワールド

原油先物は横ばい、米雇用統計受け 関税巡り不透明感

ワールド

戦闘機パイロットの死、兵器供与の必要性示す=ウクラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 7
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 10
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 6
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギ…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 10
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中