最新記事

多重債務国ハイチの意外な債権者

ハイチ大地震

M7.0に直撃された
最貧国の惨劇と国際支援のあり方

2010.01.22

ニューストピックス

多重債務国ハイチの意外な債権者

2010年1月22日(金)12時06分

もう待てない 首都ポルトープランスで救援物資を求めて殺到する人々。地震は債務返済にあえぐハイチにとって大きな痛手だ(17日) Kena Betancur-Reuters

 アメリカやフランス、日本など19の先進国が貧しい債務国の負担軽減策を検討する非公式会合「パリクラブ」(主要債権国会議)が19日、大地震に襲われたカリブ海の小国ハイチに対する債権放棄を正式に呼びかけた。

 この画期的な試みは、遅すぎた感もある。ハイチは貧しいだけでなく借金だらけの国だ。一部の債務の起源は1820年代にまでさかのぼる。ハイチを統治していたフランスは当時、独立を承認する代償として現在の通貨価値に換算して200億ドルもの支払いを要求した。

 それ以来、ハイチは借金返済に苦しんできた。70年代から80年代に軍事独裁政権を敷いたジャンクロード・デュバリエ元大統領は、国の財政を私物化して債務を増やした。

 ハイチは借金でひどく痛めつけられている。ピーク時の負債総額はGDP(国内総生産)の3倍に当たる140億ドル。09年の利息の支払い額は年間5000万ドルで、元本返済にすら行き着かない。

 ルネ・プレバル大統領の下で統治が安定し経済が成長し始めたことから、昨年の夏、2つの団体がハイチの債務帳消しに動いた。

 6月にはIMF(国際通貨基金)の債務救済計画「重債務貧困国イニシアティブ」が、ハイチの債務19億ドルのうち12億ドルの免除を発表した。翌月にはパリクラブがそれに続き、カナダやフランス、イギリス、アメリカなど10カ国が計2億1400万ドルの債権を放棄した。

ベネズエラからはまだ音なし

 ハイチの1人当たりGDPは約1300ドルで、バングラデシュなどと同レベル。推計5万人の犠牲者を出し、首都ポルトープランスの政府機関も経済活動も破壊し尽くした今回の地震による被害で、ハイチのGDPは少なくとも15%減ると専門家は試算している。

 パリクラブの代表を務めるクリスティーヌ・ラガルド経済財務雇用相の下、フランスは他の国々や組織に、ハイチに対する債権を放棄するよう先頭に立って呼びかけてきた。この働きかけで、通常は何年もかかる債務帳消しの手続きが迅速に進むことになる。

 それだけではない。ハイチの主要債権者である米州開発銀行と台湾、ベネズエラ両政府の3者に債権放棄を迫る圧力にもなっている。

 ハイチはベネズエラに1億6700万ドル、台湾に9100万ドルの債務を負っている。台湾の馬英九総統は19日、債務帳消しに前向きな姿勢を示した。「困難な状況に陥ったハイチを助けるため、必要な措置を検討するよう外交部(外務省)に呼びかけた」と馬は言う。ベネズエラのウゴ・チャベス大統領はこれまでのところ動きを見せていない。

 米州開発銀行は昨年5億1100万ドルの債務を帳消しにしたが、まだ4億4000万ドルが残っている。同銀行は今週、1億2800万ドルの供与を承認。理事会では、さらなる債権放棄が検討されている。

──アニー・ラウリー
[米国東部時間2010年1月19日(火)13時36分更新]


Reprinted with permission from FP Passport, 19/01/2010. © 2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

欧州・ウクライナの米提案修正、和平の可能性高めず=

ワールド

ウクライナ協議は「生産的」、ウィットコフ米特使が評

ビジネス

米クリーブランド連銀総裁、今後数カ月の金利据え置き

ビジネス

再送-〔アングル〕日銀、追加利上げへ慎重に時機探る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 7
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 8
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 9
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中