コラム

香港トップ会談で露呈した習政権の無責任体質

2019年11月07日(木)16時00分

デモ隊を解散させようとする香港警察。政府とデモ隊の対峙が終わる兆しはない(11月2日)Thomas Peter-REUTERS

<終わりの見えないデモの解決策をめぐり、香港の行政長官と中国の習近平国家主席、韓正副首相が先日会談したが、一連の会談で中国社会と共産党の「常識」から外れる異変が起きていた>

11月4日と6日、中国の習近平国家主席と共産党政治局常務委員・副総理の韓正は相次いで大陸を訪問した林鄭月娥・香港行政長官と会談した。6月の香港デモの発生以来、習と韓が公の場で林鄭と会談したのは初めてである。それゆえ2つの会談の内容、とりわけ2人の発言内容が注目された。

ここでは順番を逆にして、まず韓正の発言内容を見てみよう。副総理の彼は「中共中央港澳(香港・マカオ)工作協調小組」の組長(トップ)を兼任しており、共産党最高指導部における香港・マカオ工作の担当責任者でもある。

11月7日の人民日報の記事によると、韓正は会談の中で次のように述べた。

「この5カ月間、逃亡犯条例修正案から発端した香港の波風は持続的な暴力活動に変化して、香港社会の全体利益と市民の利益を損なった。中央政府は林鄭行政長官・行政府及び香港警察の仕事ぶりを十分に評価している。暴力と動乱を制止し、秩序を回復させることは依然として香港の当面の最重要任務であり、香港の行政・立法・司法機関の共同責任である」

韓正は香港の事態収拾に対する中央政府の方策・方針をいっさい示さず、暴力・動乱の制止と秩序の回復をもっぱら香港政府と立法・司法機関の「共同責任」にしている。つまり彼は明らかに、香港で生じた「持続的な暴力活動」を収拾する責任を全て香港政府に押し付けている。彼によれば、中央政府はただひたすら香港政府の任務遂行をうながし、それを監督する立場でしかない。

まるで「高みの見物」

一国二制度と言っても、香港は中央政府管轄下の特別行政区である。韓正の発言によって示された中央政府の態度はまさに無責任そのもので、まるで「高みの見物」だ。そもそも、香港・マカオ工作の担当責任者である彼が、デモ発生から5カ月も経って初めて林鄭と会談したこと自体が無責任かつ不可思議である。

韓正と中央政府のこの無責任さはどこから来たのか。それは4日に行われた習と林鄭の会談を見れば分かる。

プロフィール

石平

(せき・へい)
評論家。1962年、中国・四川省生まれ。北京大学哲学科卒。88年に留学のため来日後、天安門事件が発生。神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。07年末に日本国籍取得。『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞受賞。主に中国政治・経済や日本外交について論じている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story