コラム

トランプほど危険に見えない「許容範囲のトランプ」とは?

2022年10月18日(火)13時45分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)
デサンティス知事

©2022 ROGERS–ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<科学的根拠のないコロナ治療法を激推し、LGBTQ(性的少数者)を認めず、民主主義を否定する、フロリダ州デサンティス知事。やっていることはトランプと同じでも、危険視されないのはなぜ?>

フロリダ州のDeSantis(デサンティス)知事はトランプ前大統領と一緒で保守派を熱狂させるパフォーマンスがうまい。が、トランプと違って、大手SNSから排除されていない。訴追も捜索もされていない。ハロウィーンのかぼちゃと同じ肌の色でもない。だから「許容範囲内のトランプ」と評する人もいる。

風刺画は、9月にフロリダで猛威を振るった大型ハリケーンIan(イアン)にちなんで、暴風対策として窓に張られる板にGo away, ○○!(○○消えろ!)と書き、各種の「脅威」から州民を守るデサンティスの政策を紹介している。1つずつ見ていこう。

まずはLGBTQ(性的少数者)。デサンティスは学校で性的指向についての教育を禁じる、通称「ゲイと言うな法」を導入し、未成年の性転換手術も禁じようとしている。窓の板は性的少数者を「クローゼット」に閉じ込める効果もありそうだ。

次にCRT。社会の中の構造的な人種差別を考えるCritical Race Theory(批判的人種理論)のことだ。デサンティスはCRTの学校での指導を禁じた。そもそもフロリダの学校では教えられていないのだが。この板を張ると、歴史や制度の反省点も見えなくなりそう。

そしてVoting Rights(投票権)。デサンティスは郵便投票などを制限する法律を成立させたが、黒人などの投票を抑制するとして裁判で違憲だと認定された。一方、イアンの被災地では投票制限を緩和! 共和党員の多い一部地域のみでね。投票抑制という板で、政治的な風向きから自らを守るつもりかな?

さらにScience(科学)。専門家の見解を聞かず、科学的根拠のないコロナ治療法を激推しする。「気候変動」という表現自体も温暖化対策も嫌がるが、いくら板を張って遮断しても、イアンはその「不都合な真実」をえげつない力で見せつけた。

最後はImmigrants(移民)。州内から移民を集めて北部の州まで飛行機で運ぶパフォーマンスで反移民の姿勢を鮮明にした。窓だけでなく、アメリカの玄関口にも板を張りたいようだ。

社会的弱者、民主主義、そして科学をも拒否する数々の「板」を張るデサンティス。信じ難いことに、それが人気の秘訣で、次期大統領になる可能性も! いたたまれないね......。

ポイント

I SEE GOVERNOR DESANTIS IS PREPARED FOR THE HURRICANE!
デサンティス知事のハリケーン対策はばっちりのようだ!

CRITICAL RACE THEORY
米社会の法律や制度には人種差別が組み込まれているとする批判的学術理論。近年保守派の標的となり、各州でこれについての教育が禁止されている

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ノーベル平和賞マチャド氏、授賞式間に合わず 「自由

ワールド

ベネズエラ沖の麻薬船攻撃、米国民の約半数が反対=世

ワールド

韓国大統領、宗教団体と政治家の関係巡り調査指示

ビジネス

エアバス、受注数で6年ぶりボーイング下回る可能性=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 3
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 4
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡…
  • 5
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 6
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 7
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story