コラム

自分たちへの批判は「すべて脅迫」──「中絶反対派」という支離滅裂な人たち

2022年05月24日(火)17時05分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)
権利

©2022 ROGERS–ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<中絶を行う医師宅の放火、殺人は「自分たちの権利」だが、中絶の権利保護派のデモは「自分たちへの脅迫」。中絶反対派の大いなる矛盾とは?>

アメリカは人工中絶の権利を憲法によって保障している。1973年の連邦最高裁判決でそう定めた。が、その判決を覆す新たな判決が来月(6月)にも下される予定だ。

それを受けて、26の州で中絶が禁止または大幅規制される見込み。来年の話をすると鬼が笑うかもしれないが、来月のこの話では誰も笑っていない。むしろみんな怒っている。

まず、レイプや近親相姦による妊娠でも、妊婦が未成年でも出産せざるを得ない事態を恐れて、中絶の権利保護派は怒っている。最高裁判事の家の前で抗議デモを行う人々もいる。

そして、中絶反対派は......そのデモを見て怒っている。議論や立法という正規ルートではなく個人への圧力で目的の達成を目指すずるい手段、つまり「脅迫だ!」と憤慨している。

中絶反対派も中絶治療を行う医師の自宅前でデモを行うことがあるけどね。さらに「指名手配」と題して医師の住所や顔写真などをネットやチラシで広めてもいる。

これまで殺害された「指名手配中」の医師など関係者は10人以上、クリニックへの放火などの犯罪は100回以上に上る。そんな恐ろしい過去を持つ中絶反対派が「脅迫だ!」と騒ぐことに矛盾を感じる人は多そうだ。僕は逆に反対派が脅迫と言うなら間違いないと思うね。彼らこそ実績十分、その道のエキスパートだから。

風刺画は別の矛盾に注目している。「デモはIntrusive(個人のプライベートな空間に侵入する)行為だ!」と中絶反対派は怒っている。だが中絶を禁じて取り締まるとしたら、当局が女性の体の中を検査・監視することになる。どう考えても、家の前より子宮の中への侵入がIntrusiveだろう!

My body, my choice「私の体、私が決める」という中絶の権利を訴える有名なスローガンがある。風刺画では中絶反対を掲げる共和党のシンボル、ゾウがYour body, my choice!「あなたの体、私が決める!」としている。分かりやすいね。ぜひ女性の自己決定権を認めない判決文のタイトルにしてほしい。

実はもう1つ矛盾がある。自由を重視し、個人の権利を制限しない国を目指すはずの共和党の姿勢だ。「小さな政府」をずっと訴えてきたはずだが......あっ! もしかして、あれはベッドや子宮に入るほど小さいモノを目指していたってこと?

ポイント

PRO-CHOICE DEMONSTRATORS ARE OUTSIDE BRETT KAVANAUGH’S HOUSE!
中絶賛成派が(保守派の)ブレット・キャバノー最高裁判事の自宅を取り囲んでいる!

THEY’RE SO INTRUSIVE!
なんて立ち入ったことをする奴らだ!

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック最高値更新、貿易交

ワールド

G7外相、イスラエル・イラン停戦支持 核合意再交渉

ワールド

マスク氏、トランプ氏の歳出法案を再度非難 「新政党

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで約4年ぶり安値、米財政
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引き…
  • 8
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 9
    自撮り動画を見て、体の一部に「不自然な変形」を発…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story