コラム

全米を震撼させた議会乱入事件を、観光ツアーだったことにしたい共和党

2021年06月02日(水)19時49分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)
米共和党の歴史修正主義についての風刺画

©2021 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<米共和党のクライド議員は「普通の観光ツアー」だったと、とんでもない理屈で参加者たちを擁護>

1775年4月18日、アメリカ独立戦争の開戦前夜。イギリス軍襲来を警告すべく、ボストンの銀細工師ポール・リビアが馬を走らせたのがいわゆる「真夜中の騎行」だ。リビアはThe British are coming!(イギリス軍が来る!)と叫んだとされるが、史実かどうかは定かではない。しかし、風刺画のようにイギリス人の「観光客(tourists)が来る!」とは確実に叫んでいない。「今すぐぬるいビールと味気ない食事を!」と、お客さんを迎える準備を呼び掛けたわけではないから。

1941年12月7日、真珠湾攻撃があった。翌日フランクリン・ルーズベルト大統領は連邦議会でA date which will live in infamy(将来、恥辱として記憶に刻まれる日になる)と言い、アメリカは第2次大戦に参戦した。確実にJapanese Tourism Infamy!(日本の観光における恥辱!)とは言っていない。若おかみが布団を敷き忘れた日の話ではないから。

2021年1月6日、連邦議会の議事堂に大勢のトランプ支持者が乱入した。大統領選の投票結果を認めず、暴力でトランプ政権の維持を図ったこの愚行は反逆行為、反乱、暴動など人によって呼び方が異なるが確実にnormal tourist visit(普通の観光ツアー)ではない......はず。しかし、共和党のアンドリュー・クライド議員はこう言って暴動を擁護した。

その根拠として、クライドは参加者が彫刻展示エリアを秩序立って歩き、写真やビデオを撮影していたことを挙げている。

確かに、議事堂のガラスを割り侵入するシーン、「副大統領の首をつれ!」と叫ぶシーン、警察官を暴行するシーン、議員の事務所から物を盗むシーンなどに紛れて、秩序正しく歩いている映像もテレビで流れた。しかし、それをもって暴力で政権を覆そうとした行為を正当化するのはとんでもない歴史修正主義(revisionism)にほかならない。

当時スマホがあれば、ボストンへ進軍するイギリス軍の何人かは本場のクラムチャウダーを撮影してインスタ映えを狙ったことだろう。日本軍にはハワイの火山ダイヤモンドヘッドをバックにセルフィーを撮るゼロ戦パイロットもいたかもしれない。観光っぽく映る場面があっても攻撃は攻撃だ。

ちなみに、400人以上の乱入参加者が起訴されているという。きっと喜んでいるだろう。裁判所や刑務所など、普段見られない政府の施設内の楽しいツアーが続くから!

ポイント

GOP REVISIONIST HISTORY...
共和党の歴史修正の歴史

WE'RE WALKING...
俺たちはただ歩いてるだけ...

INSURRECTION TOUR
暴動ツアー

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイランに新たな攻撃、「米と交渉せず」と

ワールド

米戦闘機が墜落、クウェートが誤射 ドローン攻撃続く

ビジネス

英住宅ローン承認件数、1月は2年ぶり低水準 予想外

ワールド

IAEA、核施設に「被害の兆候なし」 ナタンツ攻撃
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 2
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 3
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医師が語る心優先の健康法
  • 4
    ドバイの空港・ホテルに被害 イランが湾岸諸国に報…
  • 5
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作…
  • 6
    「本当にテイラー?」「メイクの力が大きい...」テイ…
  • 7
    「高市大勝」に中国人が見せた意外な反応
  • 8
    【銘柄】「三菱重工業」の株価上昇はどこまで続く...…
  • 9
    【銘柄】「ファナック」は新時代の主役か...フィジカ…
  • 10
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 3
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 7
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 8
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 9
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 10
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story