コラム

コロナ禍で制約を受けるアメリカの日常は、黒人にとっての日常(パックン)

2020年05月30日(土)15時30分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

My Kind Of America / (c)2020 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<自由の国のはずなのに、経済活動も生活も自由にできないって......でも黒人にとってはそれこそがアメリカの日常>

アメリカに蔓延する恐ろしい「病気」がある。その脅威にさらされている人はI'm afraid to leave the house(家を出るのが怖い)や、A trip to the store could be fatal(お店へ出掛けることが命取りになるかもしれない)、またはMy basic freedoms are denied(基本的な自由が認められていない)とよく嘆いている。ではその「病気」というのは......。

風刺画を先に見ているから、分かるよね。あぁ、ネタバレだ。

それは黒人への差別や冷遇だ。各所で出ている「症状」は本当に恐ろしいもの。教育:黒人の高校卒業率は白人のそれより10ポイント低い。雇用:50年ほど前から黒人の失業率は白人の失業率のおよそ倍はある。住宅:持ち家率は白人より30ポイントも低い。健康:黒人の平均寿命は白人と比べて3.5年も短い(アジア系は白人より8.2年も長生きだけど!)。司法:黒人男性の投獄率は白人男性の投獄率の6倍以上に及ぶ。社会という統一体を成す各機能が病んでいる、まさに「合併症」と言えるものだ。

こうした慢性的なものだけではなく、急性的な症状もある。それは黒人が日々受けている暴力。疾病対策センター(CDC)によると、実は黒人男性の死因として一番多いのは......心臓病。2位は癌。さすがにここまでは普通だ。だが、3位はケガ、4位は殺人! 5%の黒人男性は殺害されるのだ。脳卒中、アルツハイマー病、糖尿病などで亡くなる人よりも、殺される人が多いということ。さらに25~29歳の黒人男性に絞ると、「警察による殺害」が死因の7位にランクインする。

風刺画では「自由の国」なのに、経済活動も生活も自由にできないって、どんなアメリカだよ(What kind of America is it?)と、新型コロナウイルス感染拡大中の生活に不満を感じる白人の疑問が挙がっている。そして普段から学校でも、銀行でも、不動産屋でも、会社でも裁判でも平等な扱いを得られず、買い物、デートなど外に出るだけで命の危機を感じる黒人は「俺のアメリカだ(My America)」と答える。切ない限りだ。

さらに残念なことに、コロナ危機においても黒人が受けるダメージは白人のそれより大きいようだ。職種や貯金額などの違いから自宅待機ができないとか、「疑われると撃たれる」恐れがあるからマスクを着けないとか、さまざまな理由で感染率が高い。そもそも黒人の医療保険の加入率が白人より低い。予防治療を受ける割合も低い。黒人が受ける医療の質も低い。その結果の違いが、いま著しく表れている。全国平均で、黒人のコロナによる死亡率は白人の死亡率より2.4倍も高い。

ここまで病んでいる国がMy Americaでもあると考えると、僕は実に恥ずかしい。

<本誌2020年6月2日号掲載>

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2020年6月2日号(5月25日発売)は「コロナ不況に勝つ 最新ミクロ経済学」特集。行動経済学、オークション、ゲーム理論、ダイナミック・プライシング......生活と資産を守る経済学。不況、品不足、雇用不安はこう乗り切れ。

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

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