コラム

トランプ元弁護士コーエンの復讐ドラマ(パックン)

2019年03月26日(火)16時15分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

Political Theater of Michael Cohen / (c) 2019 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<トランプの数々の悪事を暴露した元顧問弁護士コーエンの議会証言に対して、共和党議員は事実確認より攻撃に専念した>

ベトナムで米朝首脳会談が行われていた最中に米下院議員たちは、ドナルド・トランプ大統領にとって北朝鮮の金正恩よりも脅威となる男と話し合っていた。トランプの元顧問弁護士でフィクサーのマイケル・コーエンだ。ロシア疑惑などについての7時間にわたる議会証言は各局が生中継し、人気ドラマより多くの視聴者をとりこにした。

それもそのはず。コーエンは大統領を「ペテン師で詐欺師」とし、数々の悪事を暴露した。トランプは大統領選の間もモスクワにトランプタワーを建てる計画を進めていた! それを否定する虚偽証言を私に促した! ロシアの工作員がハッキングで入手した民主党のメールをウィキリークスが公表すると知って喜んでいた! 不倫相手のポルノ女優への口止め料の支払いと隠蔽を私に命じた(ここで物証となる小切手の写しを提示)! トランプに関連する捜査はロシア疑惑のほかにも複数続いている!

ネットフリックスの法廷ドラマ2シーズン分ぐらいの内容を、たった7時間で伝えた。それは見るよね。

でも、こんな衝撃的な証言を受けても、共和党(GOP)議員たちは事実確認よりもコーエンへの攻撃に専念した。ワシントン・ポスト紙の分析によると、共和党議員の質問の中で真相を追及しようとしたものはたったの8%。公聴会や民主党への批判は20%で、コーエンへの個人攻撃は69%だった。

危ない作戦だ。もちろん、コーエンは超悪い人。10年以上、金融機関をだましたり、トランプの敵を恐喝したり、捏造や虚偽証言をしたりした、収監寸前の犯罪者だ。しかし、そんな悪い彼に悪いことをさせたボスも当然悪いはず。

ある議員に「おまえは病的な嘘つきだ!」と言われたコーエンは、「すみません、私のことですか? 大統領のことですか?」と返した。また「私の過ちは全部認める」が、「国民が聞きたいのはトランプのことなのに、トランプに関する質問は1つもないのか」と、共和党の作戦を丸裸にしてみせた。

なかでも一番の反撃は風刺画にあるようなシーン。攻撃してくる共和党議員に向かって「私はあなた方がしているのと同じことを10年間やりました。トランプをかばい、トランプに従うことで全てを失った。私のように、何も疑わずにトランプについていく人も同じことになる」と鋭い警告をした。

このドラマ、シーズン3が早く見たい!

【ポイント】
IS IT HARD TO SLEEP AT NIGHT KNOWING YOU'RE A SLEAZY MOB-LIKE FIXER FOR TRUMP?
自分がトランプのために働く下品なマフィアのようなフィクサーだと知って、夜も眠れないのでは?

YOU TELL ME.
こっちが君に聞きたいよ。

<本誌2019年03月26日号掲載>

※3月26日号(3月19日発売)は「5Gの世界」特集。情報量1000倍、速度は100倍――。新移動通信システム5Gがもたらす「第4次産業革命」の衝撃。経済・暮らし・医療・交通はこう変わる! ネット利用が快適になるどころではない5Gの潜在力と、それにより激変する世界の未来像を、山田敏弘氏(国際ジャーナリスト、MIT元安全保障フェロー)が描き出す。他に、米中5G戦争の行く末、ファーウェイ追放で得をする企業、産業界の課題・現状など。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏の出生権主義見直し、地裁が再び差し止め 

ワールド

米国務長官、ASEAN地域の重要性強調 関税攻勢の

ワールド

英仏、核抑止力で「歴史的」連携 首脳が合意

ビジネス

米エヌビディア時価総額、終値ベースで4兆ドル突破
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 6
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 7
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 8
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    昼寝中のはずが...モニターが映し出した赤ちゃんの「…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story