コラム

危険すぎる米大統領──トランプ警報に対応せよ!(パックン)

2018年10月26日(金)17時20分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

Presidential Alert (c)2018 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<アメリカで10月から導入された緊急警報システム――しかし国民にとって最も危険なのはトップに立つトランプ大統領では⁉>

米連邦緊急事態管理庁(FEMA)からの緊急警報が10月初旬、国民の携帯電話に初めて送信された。「THIS IS A TEST. No action is needed.(システムを試しています。対応する必要はありません)」

自然災害やテロの緊急性を示す Presidential Alert(大統領警報)だが、風刺画家はその二重の意味に気づいた。この警報は災害時以外でもよく鳴るはず。危険なのは大統領だから。

クリミア半島を併合し、アメリカの大統領選挙に介入して、元スパイの暗殺を命じたロシアのウラジーミル・プーチン大統領を、ドナルド・トランプが「強いリーダー」や「いい人」と褒め、自分との「とてもいい関係」を自慢するときにも警報が鳴るはず。Putin Lover (プーチン大好き)!

「メキシコ人は殺人鬼やレイプ犯だ」や「イスラム教徒は病人だ」と罵るときにも。女性が車にひき殺された白人至上主義デモの参加者を「いい人」とかばうときにも。アフリカ諸国を「クソ溜め」とけなすときにも鳴るはず。Xenophobe(外国人差別主義者)! Racist(人種差別主義者)!

嘘をつくときも......いや、これはやめよう。真実に反する発言やツイートを全部数えると、トランプが就任してから5000回以上もあったという。平均で1日7回以上のペースだし、最高記録は1日に125回。毎回警報が鳴ったら大迷惑だ。Liar(嘘つき)! は待ち受け画面に常時表示される設定でいい。

身体障がいのある記者を真似て、手を震えさせながらばかにするときも、レイプ未遂の被害経験を公聴会で語った女性を笑いものにするときも、Bully(いじめっ子)! と鳴るはず。

「オバマ大統領はケニア出身だ」「(政敵の)テッド・クルーズの父親はケネディ大統領の暗殺に絡んでいた」「数百万人がヒラリー・クリントンに不正投票した」などと、事実無根の主張をしたときにも。Conspiracy-monger(陰謀説を広める人)!

温暖化は中国のでっち上げだとか、カリフォルニア州の山火事は温暖化ではなくカナダの林業のせいだとしたときにも。Climate change denier(気候変動否定派)!

女性をブスだ、デブだ、犬だ、豚の顔だ、馬面だ(これはつい先日!)とけなしたり、「どこかから出血している」と生理差別したりするときにも。Misogynist(女嫌いの人)!

上記のトランプの言動はどれも実際のもの。もちろん警報は鳴っていないが、風刺画家は警鐘を鳴らす。トランプの「対応は必要ない」に対して Voter(有権者)は I beg to differ(異議あり)! と立ち上がっている。僕も同感だ。試されているのは警報ではなく、民主主義というシステム。今こそ対応しないと。

<本誌2018年10月30日号掲載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

上海でAI会議開幕、中国の李首相は世界的な協力組織

ビジネス

NASA、職員の20%が退職へ=広報

ワールド

タイとカンボジアの衝突3日目に、互いに停戦と交渉開

ワールド

台湾でリコール投票始まる、野党議員24人の解職に是
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:山に挑む
特集:山に挑む
2025年7月29日号(7/23発売)

野外のロッククライミングから屋内のボルダリングまで、心と身体に健康をもたらすクライミングが世界的に大ブーム

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 2
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心中」してしまうのか
  • 3
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や流域住民への影響は?下流国との外交問題必至
  • 4
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 5
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 6
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 7
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 8
    レタスの葉に「密集した無数の球体」が...「いつもの…
  • 9
    機密だらけ...イラン攻撃で注目、米軍「B-2ステルス…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「電力消費量」が多い国はどこ?
  • 1
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 2
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人口学者...経済への影響は「制裁よりも深刻」
  • 3
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心中」してしまうのか
  • 4
    「マシンに甘えた筋肉は使えない」...背中の筋肉細胞…
  • 5
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 8
    「カロリーを減らせば痩せる」は間違いだった...減量…
  • 9
    父の急死後、「日本最年少」の上場企業社長に...サン…
  • 10
    約558億円で「過去の自分」を取り戻す...テイラー・…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 6
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 7
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story