コラム

「プーチンおやじ」の機嫌を取り、「張り子のクマ」ロシアと抱き合う中国の本音

2024年04月26日(金)17時04分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
「プーチンおやじ」の機嫌を取り、「張り子のクマ」ロシアと抱き合う中国の本音

©2024 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<風刺画で読み解く「超大国」の現実。ロシアとの親交を温める習近平(シー・チンピン)、その心の内は?>

「ロシアは中国に何か与えたのか? 科学技術? 資本? 市場? 文化?......いいえ、正解は『父の愛』だ」。これは今のロシアと中国の関係を反映した中国SNS上のジョーク。アメリカと対抗するため、今の中国はかなり「プーチンおやじ」の機嫌を取っている。

ロシア側が「大祖国戦争」の勝利を記念するため、2018年にかつて「海参崴」と呼ばれ清朝の領土だったウラジオストクで軍事パレードを行ったとき、新華社をはじめ中国の官製メディアは抗議せず、むしろ好意的に報道した。そもそもウラジオストクは「東方を支配する町」を意味するのに。

今年3月にロシア側がダマンスキー島事件55周年の記念活動を行ったときも、中国政府は沈黙を保った。日本の政治家が靖国神社を参拝したら、即時断固抗議する「戦狼外交」とは全く違う態度、「双標(ダブルスタンダード)」である。

先日、ハバロフスクで起きた放射能漏れ事件も同じだ。アムール川を挟んだハバロフスクの対岸30キロは中国領だが、ロシア政府が非常事態宣言を出したときでさえ、中国当局は「中国国内には何の問題もない」と宣言し、放射能漏れの詳細についての報道もほぼなかった。

福島第一原発の処理水海洋放出のときに、政府から国民まで激しく反応したのと正反対だ。

今の中ロの親交ぶりは、かつての日中蜜月期を想起させる。こんな話がある。1970年、江西省高安県は戦時中の日本軍による虐殺についての証言や事実資料をそろえ虐殺記念館を建てたが、「日中友好を破壊する」という理由で4年後、県政府に取り壊された。

その頃の中国は文化大革命でボロボロになった経済を改革開放で立て直すため、海外資本を呼び込むのに必死で、日米など資本主義国家にかなり友好的態度を示していた。

ただし中ロの親交は、日中蜜月期と本質的に違う。ソ連の政治遺産を相続した社会主義中国にとって、価値観が全く違うアメリカや日本との付き合いは、ただのご都合主義。西側先進国と抱擁するのは経済を発展させ、共産党独裁政権を強化するため。

ソ連崩壊が中国で再現しないよう、習近平(シー・チンピン)国家主席はプーチン大統領と抱き合って温め合う必要がある。相棒が「張り子のクマ」でも構わない。

ポイント

海参崴
ハイシェンウェイ。満州語の中国語音訳。1689年のネルチンスク条約で清の領土と明記されたが、清の国力低下で1860年にロシアに割譲され、ウラジオストクに。不凍港として知られる。

ダマンスキー島事件
珍宝島事件。中ソ対立以来、緊張関係が続いた両国が1969年3月にウスリー川の中州で軍事衝突。ヘリコプターや戦車が投入される本格的な戦争に発展し、同年9月まで続いた。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ大統領、ベネズエラとの戦争否定せず NBC

ビジネス

独経済回復、来年は低調なスタートに=連銀

ビジネス

ニデック、永守氏が19日付で代表取締役を辞任 名誉

ビジネス

ドル157円台へ上昇、1カ月ぶり高値 円が広範にじ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story