コラム

動物園のクマの四つ足切断──「足のあるものは机以外、何でも食べる」中国人の「口福」と逆襲

2023年02月07日(火)13時06分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
動物

©2023 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<高級漢方薬のためにアフリカのロバが乱獲に遭い、動物園のクマの四つ足が切断される。新型コロナウイルスから人間が歴史を謙虚に学ぶとき>

「中国人は足のあるものは机以外、何でも食べる」と言われる。これは冗談ではなく実話である。

先日、「中国で阿膠(あきょう)の需要が増大しアフリカのロバが危ない」というニュースがネットで流れた。

阿膠は漢方薬で、中国で古くから美容・滋養の霊薬として金持ちや身分の高い層に愛用され、今でも高価で売られる人気の薬だ。その原材料であるロバの皮が中国国内で供給不足になり、アフリカのロバが乱獲の災難を被っているのだ。

中国の漢方には古くから、体の弱い部分をほかの動植物の同じ部分や似た形の部分で補う「以形補形(いけいほけい)」という考え方がある。

例えば胃腸や肝臓などの消化器系が弱い場合、熊胆(ゆうたん)という熊の胆嚢(たんのう)を食べる。

昔は熊の胆嚢を乾燥させ漢方薬として服用していたが、最近は「技術革新」が進み、狭い檻に閉じ込めた熊の胆嚢に直接管を挿し込み、生きた熊の新鮮な胆汁を毎日搾り取るやり方が生まれた。これはさすがに残酷だとニュースで批判されている。

また、「熊掌(ゆうしょう)」という熊の手も最高級の中華料理用食材として人気を集めている。かつてある動物園の熊が行方不明になり、発見された時、四本の手足が全て何者かによって切り落とされていた、ということもあった。

中国人の「口福」は動物たちの災難である。そして、動物たちは復讐を始めた。

20年前に中国を席巻したSARS(重症急性呼吸器症候群)はその一例だろう。香港大学の研究チームは当時、中国・広東地方の人々が好んで食べる野生動物ハクビシンがSARSウイルスの発生源と疑われると発表した。

3年前に発生した新型コロナウイルスの発生源は不明のままだが、発生源とされる武漢市内の市場では、事件の前にウイルスを人間に感染させることのできる30種類以上の動物が食用として売られていた。武漢ウイルス研究所のコウモリも発生源と疑われるが、科学者が実験済みの動物を不正販売した事件も中国には過去に存在する。

「われわれが歴史から学ぶことは、人間が歴史から学ばないということだけだ」。ドイツの哲学者ヘーゲルのこの名言は、「何でも食べる」中国人の非常識な「口福」にぴったりだ。

ポイント

口福
コウフー。「ごちそうにありつく運」「とてもうまいものを食べて口の中が幸せだ」という意味の中国語。「眼福」の口版。

武漢ウイルス研究所
中国科学院武漢病毒研究所。1956年設立。世界最先端のウイルス学研究を行う施設として知られる。コウモリ由来のコロナウイルスの研究を行っていたため、新型コロナの発生源だったのではないかと疑われている。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story