コラム

中国サッカーを縛るサッカーくじの見えない「鎖」

2018年07月06日(金)17時00分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/唐辛子(コラムニスト)

中国人はサッカーには熱狂するが、その動機は? (c)2018 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<中国人が熱狂するサッカーW杯――しかしその動機はサッカーそのものよりサッカーくじで、サッカー精神などには「無関心」>

「日本人?」「いや、中国人」「何しに来たの? 中国はW杯に出ていないのに......」

現在、ロシアでサッカーのワールドカップ(W杯)が開催されている。W杯会場に行く中国人は10万人以上。中国中央電視台(CCTV)はロシアに約30億元(約500億円)の収入をもたらすと報じている。だがW杯会場にいる中国人は、こんな気まずい質問をよくされる。

W杯会場にいる中国メディアも同じだ。日本のスポーツメディアがこんな記事を書いた。試合が近づくにつれ、メディアセンターは各国の記者たちであふれ始める。みんないい席を取ろうと先を争うなか、大声でわめき立てる中国人記者にアルゼンチン人記者がこう言った。「君の国は出ていないのに、なぜここで偉そうな顔をしているの?」

中国の男子サッカーは駄目だ。これまでW杯本選出場は02年の日韓大会だけ。それでも中国人の熱狂はやまない。競技場内の広告は中国企業だらけで、その広告総額は全スポンサー中で1位の約8億ドル。マスコット「ザビワカ」グッズも、使われているボールも中国製で、出場国どころか主催国のように見える。「今回のW杯に中国は代表チーム以外全てが出場した」というジョークのとおりだ。

もちろん、国内の熱狂も現地ロシアに負けていない。米市場調査会社ニールセンの16年の調査によれば、中国のサッカーファンは都市部だけで2億3600万人。ファンが各地のレストランやバーに集まり、ほぼ毎日徹夜で好きなチームを応援する。ただ動機はサッカーそのものよりサッカーくじだ。ブラジルW杯のあった14年、サッカーを含むスポーツくじの売り上げは1764億元(約3兆円)に達した。今年も負けないだろう。

あまりに多く購入されているため、大損した人が過激な行動を取らないよう各地の警察がSNSを通じて呼び掛けるほどだ。

どうして中国人はW杯にこんなに熱心なのに、中国サッカーは駄目なのか。習近平(シー・チンピン)国家主席も「W杯を招致せよ」と号令を掛けているのに。「偽のファンが多い。サッカーより商売やくじが大事で、サッカー精神とかには無関心」と、ある中国人ジャーナリストはため息をついた。

【ポイント】
スポーツくじ

中国政府公認のスポーツくじがある。今回のW杯開幕前後の1週間の売り上げは過去最高の約74億元(約1200億円)。一方で、闇の賭博サイトによるトラブルも横行。1次リーグでドイツがメキシコに敗れた当日には警察がSNSで「ビルから飛び降りるな」と自殺防止を呼び掛けた

<本誌2018年7月10日号掲載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、シカゴへの州兵派遣「権限ある」 知事は

ビジネス

NY外為市場=円と英ポンドに売り、財政懸念背景

ワールド

米軍、カリブ海でベネズエラ船を攻撃 違法薬物積載=

ワールド

トランプ氏、健康不安説を否定 体調悪化のうわさは「
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 6
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 7
    トランプ関税2審も違法判断、 「自爆災害」とクルー…
  • 8
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    世界でも珍しい「日本の水泳授業」、消滅の危機にあ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story