コラム

米中貿易戦争の本質は価値観のぶつかり合い

2018年05月10日(木)19時00分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/唐辛子(コラムニスト)

(c)2018 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<アメリカは国交を通じて中国に価値観も輸出して普及させようともくろんだが、それは失敗だったようだ>

「この世の中には2つの論理がある。1つは論理、もう1つは中国式論理」。中国人の若手人気作家、韓寒(ハン・ハン)は以前、自国政府にこう皮肉を言った。近頃の米中貿易戦争のにぎやかさを見て、この言葉を思い出した。人間はみんなそれぞれの価値観によって論理の出発点を選ぶ。表面的には米中間の貿易戦争に見えるが、その本質は価値観の戦いじゃないか?

今回の貿易戦争の起因は、不公正な貿易慣行に対し大統領判断で関税引き上げなどの制裁措置が取れると定めた米通商法301条に基づく調査結果だ。それによると2010年以来、中国側は米企業の中国進出時に技術譲渡を義務付けないことを公式の場合だけで少なくとも8回以上承諾したのに、相変わらず技術譲渡を続けさせている。また2001年のWTO加盟後、中国の官僚たちは書面的な要求を避け、できるだけ口頭や非公式な行政指導によって外国企業に技術移転を強いている。

表面的に承諾はするが、実際の行動は違う。「手段が正しいかどうかは別にして、結果的に正しい目的さえ達成できればよい」という中国式論理だ。西側世界の契約精神とは全く無関係。何千年もの歴史の中から生まれてきたこの生きる知恵は、中国人の間でかなり根深い。アメリカのような歴史の浅い国はおそらく理解できないだろう。アメリカは70年代に中国と国交を結んで以来、貿易で中国の経済振興を応援するとともに、アメリカ的な価値観も中国に輸出して普及しようともくろんできた。だが、結果から見てそれは失敗だったようだ。

中国が発表した「中国製造2025」という世界一の製造業大国になる戦略も、アメリカに危機感をもたらしている。301条の調査結果によると、ハイテク製造業における各国の生産量はアメリカが29%、次は中国で27%を占めている。技術革新はアメリカの国際競争力の源泉だ。世界経済の中心的地位を目指す中国の戦略に対して、アメリカ側はかなり不快だろう。経済力はある意味で発言力。発言力を握ると、世界の価値観も左右できる。

たとえ貿易戦争は一時的に停止したとしても、価値観をめぐる米中の持久戦はなかなかやみそうにない。

【ポイント】
韓寒

82年、上海生まれ。デビュー作『三重門(上海ビート)』がミリオンセラーに。プロのカーレーサーとしても活動する

中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)
15年に中国政府が発表した向こう10年間の産業高度化戦略。建国100年の49年に世界一の製造強国になることが最終目標

<本誌2018年5月15日号掲載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日米2回目の関税交渉、赤沢氏「突っ込んだ議論」 次

ワールド

原油先物が上昇、米中貿易戦争の緩和期待で

ビジネス

午前の日経平均は続伸、一時500円高 米株高や円安

ビジネス

丸紅、26年3月期は1.4%の増益予想 非資源がけ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 9
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 10
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story