コラム

バイデンの再選を脅かす「第3の男」がついに登場か――出馬がささやかれる民主党の大物議員の正体

2023年11月22日(水)14時00分
ジョー・マンチン

マンチン(写真)が出馬すれば割を食うのはトランプよりバイデン JULIA NIKHINSON―REUTERS

<上院議員からの引退を表明したのは出馬への布石? この大物が第3政党から出馬すればバイデンの票を奪うことに>

私は2011年の今頃、翌年の米大統領選で再選を目指していたバラク・オバマ大統領(当時)について、こんなコラムを書いた。

「オバマ大統領にとって最大の厄介の種になるのは、現時点でまだ出馬を表明していない人物かもしれない。そして、その候補者は(民主党もしくは共和党の)指名候補ではないに違いない」


抜群の知名度を持つ人物が党内の候補者指名レースを経ずに名乗りを上げれば、無党派層の支持をかなり引き付けるだろうと、私は考えたのだ。党内の足の引っ張り合いと距離を置くことにより、無党派層に、信頼できる「大人」の政治家という印象を与えられるからだ。

結局、12年大統領選では2大政党以外の候補者の本格的な参戦はなく、オバマが共和党のミット・ロムニーを大差で退けた。

しかし、その12年後、オバマの副大統領を務めたジョー・バイデン現大統領が「第3の候補者」の挑戦を受けるかもしれない。民主党のジョー・マンチン上院議員が上院議員引退を表明したため、来年の大統領選に出馬するという臆測が広がっているのだ。

2000年大統領選以降、2大政党以外の候補者が選挙結果を左右したケースが2度あった。2000年には、消費者活動家のラルフ・ネーダーが出馬していなければ、民主党のアル・ゴアが共和党のジョージ・W・ブッシュを破っていただろう。

民主党のヒラリー・クリントンと共和党のドナルド・トランプが対決した16年大統領選でも、2000年ほど明確ではないものの、第3党の候補者が選挙の結果に影響を及ぼした可能性が高い。リバタリアン党と緑の党の候補者が出馬したことがクリントンに不利に働いたと思われる。

上院議員を引退する「本当の」理由

来年の大統領選にマンチンが出馬すれば、トランプよりバイデンの票を多く奪いそうだ。

第1に、マンチンは同じ民主党のバイデンと票を奪い合う形になる。第2に、前回大統領選でバイデンに投票した「反トランプ」の共和党支持者は、バイデンよりも、保守派寄りの民主党政治家であるマンチンを好む可能性が高い。

議会での行動を見ると、マンチンは今年に入ってとりわけバイデンの意向に背くことが増えている。21年1月~23年1月、マンチンは上院の採決で、87.9%のケースでバイデンの立場に沿った投票をしていたが、今年はその割合が21.4%まで落ち込んでいる。

2大政党以外の大統領選候補者の擁立を目指す団体「ノー・レーベルズ」(マンチンは同団体からの出馬を取り沙汰されている)の世論調査によると、8月の時点でペンシルベニア州ではバイデンがトランプを支持率で5ポイントリードしていた。

しかし、もし共和党政治家が第3の候補者として出馬すれば、バイデンのリードは7ポイントに広がり、民主党政治家が第3の候補者として出馬すれば、そのリードは3ポイントに縮小するという。つまり、マンチンが出馬すれば、バイデンの再選にとって見過ごせない脅威になる。

私の見方では、マンチンは少なくとも現時点では大統領選への出馬を考えていないように思える。なにしろ、来年の大統領選に勝ったとして、4年の任期を終えるときには81歳になっている。

マンチンが上院議員を引退する本当の理由は別のところにありそうだ。現状では、上院選に出馬しても勝てそうにないのだ。その点、大統領選に転身する可能性をちらつかせれば、上院選で負けるのが嫌で「逃げた」という印象を薄めることができる。

しかし、今後メディアで脚光を浴び、支持率が伸びれば、出馬に踏み切る可能性もある。その動向は、バイデンとトランプの運命にも影響を及ぼすかもしれない。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

成長型経済へ、26年度は物価上昇を適切に反映した予

ビジネス

次年度国債発行、30年債の優先減額求める声=財務省

ビジネス

韓国ネイバー傘下企業、国内最大の仮想通貨取引所を買

ワールド

中国、与那国島ミサイル計画に警告 「台湾で一線越え
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story