コラム

組織心理学の若き権威、アダム・グラントに聞く「成功」の知恵

2022年06月11日(土)13時26分

グラント 人々が考え方を変えられるような文化を構築するためには、まず心理的安全性について考える必要があるだろう。エイミー・エドモンドソン(ハーバード・ビジネススクール教授)が定義しているように、心理的安全性とは文化において、あるいはチームや会社、学校、家族において、リスクを冒して率直に発言しても罰せられないと思えることだ。

何かしら反発や報復を心配せずに、率直な意見を言える。これは、権力格差が大きい文化では特に厄介だ。そのような文化では、他人に異議を唱えないものとされている。

従って、問題に最も近いところにいる人、何が問題なのかが最もよく見えている人が、権威に異を唱えるには最も難しい立場にいる。この問題に対処するためにリーダーができることの1つは、またしても日本文化に親しんでいる人にとっては比較的実践しやすい。

その方法とは、謙虚な姿勢を見せることだ。アメリカの人たちは自分に酔いやすく、自分がいかに大きな成果を上げているか、いかにほかの人たちより優れているかをアピールしたがる。

それに対し、私が日本社会の規範に接したり、日本に関するデータを見たりした限りでは、日本では、肥大した自尊心をあらわにすることは受け入れ難い態度と見なされる。もっと言えば、恥ずべき悪行のように思われる場合もある。忘れてはならないのは、謙虚さを表現するために細心の注意を払うこと。

ただし、リーダーや親としてあなたが取るべき最も重要な行動は、「いつでも言いたいを言いに来てくれよ!」と部下に述べることではないし、「異論があるなら言ってほしい」とわが子に言うことでもない。あなたがこうした言葉を述べても、部下や子供は、あなたが本心からそう言っているという確信を抱けないからだ。

上司や親の気に障ることを言ってしっぺ返しを食ったり、忙しくしていて話を聞いてもらえなかったりするのではないかと心配せずにいられない。そこで、リーダーが自分の欠点や弱みを語ることにより謙虚さを表現する必要がある。

「いま私はこれらの問題を克服しようと努めています」「最近、こうしたフィードバックを受けました。これらの点でもっと成長しなくてはならないと思っています」などと言えばいいだろう。

私がさまざまな国で実施した研究によると、リーダーがこうしたことを語れば、単にフィードバックを求めているというだけでなく、厳しい指摘を受け入れる意思があることが相手に伝わる。そのような指摘をした人物につらく当たったりはせず、それどころか真実を教えてくれたことに感謝して恩恵を施す可能性すらあると分かってもらえるのだ。

このような心理的安全性をつくり出したいのであれば、自分が謙虚にフィードバックを受け入れられる人間であること、問題の指摘に耳を傾け、問題を修正する能力があることを表現する努力が必要とされる。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:値上げ続きの高級ブランド、トランプ関税で

ワールド

訂正:トランプ氏、「適切な海域」に原潜2隻配備を命

ビジネス

トランプ氏、雇用統計「不正操作」と主張 労働省統計

ビジネス

労働市場巡る懸念が利下げ支持の理由、FRB高官2人
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 5
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 6
    オーランド・ブルームの「血液浄化」報告が物議...マ…
  • 7
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 8
    これはセクハラか、メンタルヘルス問題か?...米ヒー…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story