コラム

大統領就任まで1週間、バイデンを待つ 3つの歴史的難題

2021年01月13日(水)16時30分

しかしバイデンはコロナ禍を、より長期的な課題に対処する好機として利用するかもしれない。例えば、将来の感染症流行を防ぐ手段として気候変動対策に取り組むだろう。

10万人規模の公衆衛生対策部隊を設立するとも語っているが、この施策は雇用も刺激する。医療制度の拡充にも乗り出すはずだ。

大統領就任後の100日間は、「ハネムーン」の期間としてお手柔らかに見られるのが通例だ。しかし今の逼迫した社会状況の中で、バイデンにそんな贅沢は許されない。もしコロナ対策が評価されれば、他の政策を追求する余裕ができるかもしれないが。

2.経済とグローバル化

大学教員たちの間では、こんな会話が繰り返されている。「どうしてトランプが7400万票も取れたんだ? 米史上最も腐敗した無能な大統領に投票したのは誰なんだ?」

客観的に見れば、その答えは単純だろう。彼らの正体は、エリートへの反感、グローバル化への恐怖、左派の提唱する大きな政府や増税、移民受け入れや脱炭素に対する強烈な反発などに突き動かされた人々だ。バイデンは大恐慌以来で最悪の経済危機に直面するが、同時にトランプ大統領誕生の土壌となったポピュリズムの時代にも直面する。

持てる者と持たざる者の分断を、コロナは加速し拡大させただけにすぎない。バイデンは、民主党が1875年以来で最小の過半数を占めることになった下院を引き継ぐことになる。

つまり、どんな展開が待ち受けるのか? バイデンは経済政策の立案者に、名声と経験を備えるだけでなく共和党穏健派や金融界からも敬意を集める人物を選んだ。コロナのせいで今後の経済対策には協力と妥協が欠かせず、激戦州選出の議員たちは経済で失敗したら自らの議員生命が絶たれることを自覚している。

バイデンとナンシー・ペロシ下院議長、ミッチ・マコネル上院院内総務の3者は、長年に及ぶ大統領と上下院の党を超えたハイレベルの合意形成の歴史を背負っている。次期財務長官に指名されたジャネット・イエレンと連邦準備理事会(FRB)議長ジェローム・パウエルの政権チームは財政支出や量的緩和を臆さず実施し、一方で共和党穏健派議員らはバイデン政権との取引に応じるだろう。

極端に抑制された需要のエネルギーは今後、個人消費と金融市場で爆発するだろうが、どちらも上流中産階級の多大な可処分所得と膨れ上がった貯蓄に依存する。

バイデン政権に大きな試練が訪れるのは、中間選挙への動きが本格化する1年半後だ。政権発足直後から襲われる経済的惨状に対処するまでは、バイデンは格差と分断への対策(増税や公共支出など)に着手できないだろう。

3.台頭する中国への対処

大国間競争の時代が再来したことは疑いようもない。古代ギリシャの歴史家トゥキュディデスの言葉どおり、既に超大国が存在するところに台頭するライバルが現れれば、紛争が起こるのが運命というもの。歴史を振り返れば、こうした不安定な共存状態下では大抵、軍事衝突が起こった。バイデンがまずコロナ対策に全力を傾けるのは間違いないが、彼の熟練の外交チームは手広く外交を展開するだろう。中国の台頭に目を光らせることは、共和党との連携を図る最大の手段になる。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=

ビジネス

GM、通期利益予想引き下げ 関税の影響最大50億ド

ビジネス

米、エアフォースワン暫定機の年内納入希望 L3ハリ

ビジネス

テスラ自動車販売台数、4月も仏・デンマークで大幅減
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story