コラム

アメリカは人種差別国家なのか:答えはノーだ

2020年06月23日(火)16時00分

キング牧師(中央)は正義の実現を信じていた(1963年) ROBERT W. KELLEYーTHE LIFE PICTURE COLLECTION/GETTY IMAGES

<人種的マイノリティーが指導者になった唯一の主要な民主国家という事実>

人種問題に関するアメリカの歴史は、悲しいほど逆説的だ。

私は2008年11 月4日の大統領選当日、投票用紙にバラク・オバマの名前を見つけたとき、自然と目に涙が浮かんできたのを鮮明に覚えている。奴隷制度はアメリカの原罪であり、白人女性より前に黒人男性を大統領に選出したことは、機会の平等という建国時の哲学的信条を実現したいと願い続けてきたアメリカにとって画期的な出来事だった。

第3代大統領トマス・ジェファソンはアメリカで最も重要な文書である独立宣言に、全ての人間が平等で不可分の権利を持つべきだというアメリカの信条を明記した。だが、当時のアメリカは制度的に黒人を奴隷化していた。独立宣言の起草者であるジェファソン自身、多くの黒人奴隷を所有していた。

20200630issue_cover200.jpg

アメリカの黒人は警察官に殺される確率が白人の2.5倍もある。黒人が刑務所に入る確率は大学進学率よりも高く、囚人たちは危険で過酷な労働を強いられる。そのため多くの研究者は、アメリカの刑務所は現代版の奴隷制度だと主張している。

ミシェル・アレグザンダーの著書『新ジム・クロウ』は、投票する権利を奪われたある黒人の家系の歴史を通じ、延々と続く人種差別の実態を浮き彫りにしている。ある元囚人の曽々祖父は奴隷にされ、曽祖父は投票しようとして白人至上主義団体KKK(クー・クラックス・クラン)に殺され、祖父はKKKの脅迫のために投票できず、父親はジム・クロウ法(黒人隔離法)に投票を妨げられた。そして今、本人も有罪が確定した既決重罪犯であることを理由に選挙権を奪われている。

6月19日は奴隷解放宣言を記念する祝日だった。トランプ米大統領はこの日にオクラホマ州タルサ(1921年に悪名高い黒人虐殺事件が起きた場所)で集会を予定していたが、激しい抗議を受けて翌日に延期した。

それでもトランプは、ツイッターでこう警告するのを忘れなかった。「オクラホマに行くあらゆる抗議デモ参加者、無政府主義者、扇動者、略奪者、犯罪者は理解せよ。ニューヨークやミネアポリスのような扱いを受けることはない」。黒人主体のデモ参加者は、負傷したり殺される恐れがあるという脅しとも受け取れる。

やはりアメリカは今もひどい人種差別国家なのか?答えはノーだ。公民権運動の指導者マーチン・ルーサー・キングは、道徳の弧は正義に向かっていると言った。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

政府・日銀、景気認識に「齟齬はない」=片山財務相

ワールド

ブラジル経済活動指数、10月は前月比0.2%低下 

ビジネス

S&P500の来年末目標は7700、AIが依然主要

ワールド

メキシコ、米国産豚肉を反ダンピング・反補助金調査
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 7
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 8
    「職場での閲覧には注意」一糸まとわぬ姿で鼠蹊部(…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story