コラム

米中間選挙後の民主党がトランプ弾劾を目指さない理由

2018年10月19日(金)11時15分

共和党議員の「造反」で罷免される可能性は極めて低いが…… Jonathan Ernst-REUTERS

<民主党は2年後の大統領選に照準を合わせる――20年前のクリントン弾劾からその戦略を読み解く>

前回、アメリカ大統領が弾劾訴追されてから、今年でちょうど20年になる。98年、共和党が多数派を握っていた米議会は、個人のセックスライフについて嘘をついたことを理由に当時のクリントン大統領(民主党)を弾劾裁判にかけた。

大統領弾劾の手続きは、下院の過半数の賛成で訴追が決まると、上院で弾劾裁判が行われ、3分の2(67票)以上が賛成すれば大統領が罷免される。このとき、下院では僅差でクリントンの弾劾訴追が決まったが、上院では罷免への賛成が3分の2に届かず、クリントンは大統領職にとどまった。

もしかすると、11月の中間選挙後、20年前と同じことが起きるのかもしれない。

民主党は、トランプ大統領を弾劾訴追に持ち込むことはできても、罷免までは難しいだろう。中間選挙で民主党が下院の過半数を制する確率は高いが、上院で67議席を獲得する確率はほぼゼロだからだ。

一部の共和党上院議員の賛同を得てトランプを罷免するというシナリオも描きづらい。ブレット・キャバノーの連邦最高裁判事への指名承認をめぐる動きが浮き彫りにしたように、議会共和党は一貫してトランプを熱烈に支持している。共和党議員たちは、身内でさえあれば、どんなにひどい行為も擁護するつもりらしい(皮肉なことに、キャバノーは98年に法律家としてクリントンの追及で大きな役割を果たした人物だ)。

大統領罷免の可能性がほぼなくても、民主党が下院でトランプを弾劾訴追することに意味はあるのか。

ペンス昇格は避けたい?

この点では20年前が参考になる。98年、アメリカの有権者の過半数は、共和党がクリントンを弾劾することを支持していなかった。共和党が弾劾訴追に向けて動くなかで行われた98年11月の中間選挙で、共和党は下院で議席を減らした。その結果、一時は飛ぶ鳥をも落とす勢いだったギングリッチ下院議長(当時)が辞任に追い込まれている。

しかし、その2年後の2000年大統領選では、共和党がホワイトハウスを奪還する。当時のアメリカは平和と好景気を謳歌し、退任する民主党のクリントンが高い支持率を維持していたにもかかわらず、である。

ホワイトハウスに「栄誉と尊厳を取り戻す」と訴えた共和党のジョージ・W・ブッシュが、クリントンの下で副大統領を務めたアル・ゴアを破ったのだ。大統領に誠実さを求めると述べた有権者の間では、ブッシュ支持がゴア支持の5倍に達した。

民主党は今年の中間選挙で下院の過半数を握った場合、この歴史を見て行動を決めるだろう。トランプは、弾劾に値する行為を重ねてきたと言っても過言ではない。しかし、民主党が下院でトランプの弾劾を決定し、上院で奇跡的に罷免が決まった場合、後任に昇格するのはペンス副大統領だ。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日米韓が合同訓練、B52爆撃機参加 3カ国制服組ト

ビジネス

上海の規制当局、ステーブルコイン巡る戦略的対応検討

ワールド

スペイン、今夏の観光売上高は鈍化見通し 客数は最高

ワールド

トランプ氏、カナダに35%関税 他の大半の国は「一
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 10
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story