コラム

米党派政治の深い溝が、ユダヤ系社会を分断する

2018年05月12日(土)15時10分

反ネタニヤフのユダヤ系アメリカ人女優ナタリー・ポートマン Mario Anzuoni-REUTERS

<米大使館のエルサレム移転に米ユダヤ人が反対、保守・リベラルの対立軸は信仰にも勝る>

アメリカで5人のカトリック教徒に信仰を語らせれば、同じ宗教の話をしているとは思えないかもしれない。人々の宗教的志向は、この半世紀の間で、政治的な党派性を色濃く反映するようになった。例えば保守派のカトリック教徒は、リベラルなカトリック教徒より保守派のユダヤ教徒とのほうが、共感するところは多いだろう。

政治的な断層はさらに、ユダヤ系アメリカ人とイスラエルを疎遠にしつつある。若い世代を中心とするアメリカのユダヤ系コミュニティーは、米大使館のエルサレム移転、イラン核合意、パレスチナ問題の3つの外交政策について、明らかにイスラエルと距離を置き始めている。

アメリカ・ユダヤ人委員会(AJC)が昨年9月に発表したユダヤ系アメリカ人の世論調査によると、米大使館の「即時移転」に賛成する人は16%、「イスラエルとパレスチナの和平交渉の進展と連動して後日の移転」に賛成する人は36%。移転そのものに反対する人は最も多い44%だった。

この数字は、アメリカにはびこる党派分裂を如実に反映している。共和党ユダヤ人連合と保守派のロビー団体「米・イスラエル広報委員会(AIPAC)」は、大使館移転を称賛する。一方で、リベラルな親イスラエルのロビー団体「Jストリート」は、「具体的な恩恵はなく、深刻なリスクを招きかねない無益な策」だと批判。昨年12月には米国内の大学でユダヤ研究に従事する学者186人が、トランプ政権に失望したと訴える公開書簡に署名した。

イスラエルのネタニヤフ首相は、トランプ米大統領がイラン核合意を「歴史上最悪のディール」と公言してはばからないことに乗じ、アメリカに合意の破棄を迫っている。4月30日にはイランの核開発計画の「証拠」を公表し、合意の正当性は失われたと強調した。

リベラルの理想と現実

こうした国際情勢の動向は、ユダヤ系アメリカ人とイスラエルをさらに疎遠にする恐れがある。ユダヤ系アメリカ人の49%がイラン核合意に賛成しており、反対は31%だ。

昨年12月、イスラエルのハーレツ紙にある論説が掲載された。タイトルは、「トランプに愕然とし、ネタニヤフに裏切られ、ユダヤ系アメリカ人のリベラル派は見捨てられた孤立感に襲われている」。

アメリカのリベラルなユダヤ人は、「自分たちが夢見る啓蒙的なイスラエルと、ユダヤ人入植を推し進める神権政治の現実との折り合いをつけることができない」のだ。

今年4月にイスラエル出身のユダヤ系アメリカ人女優ナタリー・ポートマンは、ユダヤ人のノーベル賞とも呼ばれるジェネシス賞を辞退。「ネタニヤフを支持していると思われたくないから」だと表明した。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国のインフレ高止まり、追加利下げ急がず=シカゴ連

ビジネス

10月米ISM製造業景気指数、8カ月連続50割れ 

ワールド

中国首相、ロシアは「良き隣人」 訪中のミシュスチン

ビジネス

ECB利下げ判断は時期尚早、データ見極めが重要=オ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story