ただ、クラインがそれを作品プロジェクトとして昇華するには、さらなるきっかけを要した。韓国生まれ、ドイツ在住のカリスマ的哲学者、ビョンチャル・ハンの「The Burnout Society」(燃え尽き社会)理論との出合いがそれだ。この理論が、彼女自身の苦悩と、現代社会が抱える神経学的とも言われる時代の闇をはっきりさせてくれたのだった。

自らの体験と時代の理論の出合ったためか、彼女の写真哲学もはっきりしている。

「写真で最も重要なことは、正直であること。しばしば私たちは、既成の写真界が作り出したスタンダードなるものを考慮してしまう。本来はそうではなく、私たち自身がやりたいように作品への道を切り開いていくべき」

セルフポートレートが彼女自身のセラピーになっている。当初は、考えていた作品の中のキャラクターは他人に頼むつもりだったという。だが、時間的な制約や経済的な問題からか、自らキャラクターとして演じることになったらしい。

それが逆に功を奏する。カメラの後ろでなく被写体として前に立つことで、プロジェクトに対する考え方に幅が広がり、自分をよりストレートに見つめ直すことで、クライン自身のセラピーになっていったという。

とはいえ、作品のキャラクターは、彼女自身が演じていようが、あるいは他人が演じていようが、ほぼ常に何かに怯え、抑圧されているような雰囲気が漂っている。クラインによれば、常に外に向けて逃れようとしているが、結局(逃れられず)敗北しているのだという。

だがそれは、すでに触れたように、キャラクター・セッティングとはいえ、クライン自身と現代社会が抱えている大きな現実なのである。だからこそ、彼女の作品は文字通り、世界中の多くの人々に響くのかもしれない。

今回紹介したInstagramフォトグラファー:
Tania Franco Klein @taniafrancoklein

ニューズウィーク日本版 戦争インフレ
2026年4月28号(4月21日発売)は「戦争インフレ」特集。

ホルムズ海峡封鎖でガソリン・日用品が高騰。世界経済への悪影響と「出口」を読み解く

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら
※画像をクリックするとアマゾンに飛びます