コラム

絶妙なカメラアイと構図が「おとぎ話のような世界」を生む

2015年08月18日(火)16時30分

 連載第二回は、アメリカのフィラデルフィアをベースとするベテラン写真家のエリック・メンチャー。そのスタイルは、彼の言葉を借りれば、ドキュメンタリーとファインアートの要素を絡ませたストリート・フォトグラフィーだ。

There Are Dark Shadows On The Earth, But Its Lights Are Stronger In The Contrast-Dickens

Eric Mencherさん(@emencher)が投稿した写真 -


After Munkácsi

Eric Mencherさん(@emencher)が投稿した写真 -


 作品には、シャドウ&ライトの技法(強い光と影でコントラストを極端にした写真)がしばしば多用されるが、今流行りの、シャープ感だけを追求するストリート・フォトグラフィーではない。そうした写真はカッコよくみえてもすぐに飽きる。むしろ彼の良さはその対極にある。詩的だがどこかほっとするようなユーモアが多くの作品ににじみでている。加えて、シュールでもあるのだ。

 近年、精力的に撮り続けているグアテマラ、メキシコのシリーズは、その典型だろう。湖面の高さが6メートルも変動するという火山湖アティトラン、部族社会に暮らすマヤ族の日常、宗教儀式などをモチーフにし、スピリチュアル的な匂いと共に、我々を「おとぎ話のような世界」に誘ってくれる。心地良い安定感も伝わってくる。絶妙なカメラアイと構図がそれを生み出している。

 こうしたメンチャーの作品の特性は、彼の輝かしい経歴、挫折、そして復活という人生そのものからきているのかも知れない。もともと彼は、フィラデルフィア・インクワイアーという著名な新聞社で世界的に活躍していたフォト・ジャーナリスト。同時に癌サバイバーである。その大病がもとで、22年におよぶ新聞社でのキャリアを閉じたが、写真家として生き延びる。いやそれどころか、今も成長を続けている。

 現在の写真哲学を彼はこう語る。「新聞社時代の衣を意図的に脱ぎ捨てている......善悪のはっきりした写真でなく、むしろ見る者の経験や知識によって奥行きが深まるような写真をとりたい」そして、「インスタグラム、iPhone など、新しい表現形態の中でも挑戦していきたい」と。

今回ご紹介したInstagram フォトグラファー:
Eric Mencher @emencher

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豪中銀、予想通り政策金利据え置き インフレリスク警

ワールド

EU、環境報告規則をさらに緩和へ 10日草案公表

ワールド

中国外相「日本が軍事的に脅かしている」、独外相との

ワールド

焦点:米政権の燃費基準緩和、車両価格低下はガソリン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 10
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story