コラム

第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC

2026年03月18日(水)14時45分

まず大会の具体的なターゲット市場は日本でした。第1回大会までの時点で、野茂英雄氏をはじめ、イチロー氏など数名の選手がMLBで活躍を始めており、日本におけるNHKを中心としたMLB中継は成功を収めていました。そんな中で、MLBとしては、より深く広く日本市場に浸透するというのが大会の戦略的な目的だったと理解できます。

この点に関しては、何よりも、
・「日本でのMLB人気に支えられたWBCの人気が、地上波TVのビジネスモデルを金額的に超えてしまった」
・「日本代表敗退の瞬間に、多くの日本の野球ファンは大谷選手や山本投手が戻っていくドジャースの戦いぶりなど、MLBの開幕へと関心が移っていった」
ということで、本来の「MLBによる日本市場への浸透」ということが達成されてしまったのだと思います。仮に日本市場への浸透というのが大会の目的であるならば、それはMLB側から見れば「完全に実現」されたのです。裏を返して言うならば、大会を続ける意義がMLBサイドとしては薄れていくということです。


もう1つのターゲットは中南米でした。中南米の選手によるMLBにおける存在感が非常に大きくなってきた中で、彼らのプライドを満たす機会を作ることで、中南米におけるMLBビジネスを拡大しようというわけです。当初はドジャースタジアムであった決勝トーナメントの会場が、マイアミに移ったのもそうした事情があったのだと思います。

この点に関しては、達成されたというよりも、政治的な要素が複雑化してしまい、アメリカと中南米の関係が以前とは変わってしまったということが挙げられます。本来であれば、中南米出身の選手が母国の代表として活躍する姿は、アメリカの野球界全体があたたかい目で見ることで、MLBの発展というストーリーが成立していました。

ロス五輪で「野球の国際化」は進むのか

今でも基本的にアメリカの野球ファンの姿勢はそうだと思いますが、政治的には複雑な対立構図があるのは否定できなくなっています。そんな中で大会が政治に関与しなかったのは評価できますが、政治が微妙な影を落としているのは明らかでした。これ以上の盛り上がりを期待するのなら政治的な背景を無視できないし、政治色を抜きに盛り上げるような平和なムードも薄れているからです。

最大の問題は今後数年間の動きです。まず、2027年にはMLBの選手協約の更新が難航する見込みです。合意ができなければ、「ロックアウト」つまり選手会のストライキに先回りして経営側がシーズンを停止する可能性が大だと言われています。

まだ詳細は不明ですが、WBCへの参加に関して選手側の意見と、オーナー側の意見が合意できなければ、このMLBの選手協約の交渉を通じて、WBCの姿が変わっていく可能性もあると思われます。また、コミッショナー側としては、MLBの国際化よりも、国内における拡大(例えば、ポートランドとナッシュビルを加えた32チーム体制)に注力したいという思惑もあるようです。

更に2028年にはロス五輪があります。野球が競技として復活するのは決定していますが、この五輪がどうなるのか、例えばMLBの選手は参加するのかしないのかといった問題は、まだ決定していません。この問題も選手協約の交渉に入ってくるかもしれません。いずれにしても、ロス五輪の成り行きによっては、WBCのような「野球の国際化」に勢いがつくのか、反対にブレーキがかかるのか、何とも不透明な状況です。

第6回の大会が終わった今、WBCが大きな曲がり角に来ているのを感じます。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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