コラム

サッカーをフットボールと呼ばせたいトランプの執念

2025年12月10日(水)15時30分

FIFA側には思惑があるという説もあります。というのは、来年2026年にはW杯が開催されますが、北アメリカの3カ国、すなわちアメリカ、カナダ、メキシコの共同開催となり、使用するスタジアムも3カ国にわたっています。世界中から集まった選手や観客、あるいは各国関係者やスポーツ記者などが、開催期間中にはスムーズに3カ国を行き来する必要があります。

第2次トランプ政権は国境管理を厳しくしていますが、少なくともW杯の開催期間については、関係者をスムーズに出入国させて欲しい、FIFAはそのような思惑から、トランプ氏との関係を良好にしたい、そう考えた可能性があります。トランプ氏としても、W杯を成功させることがアメリカの権威になるという計算はあるようで、ここには相互にウィンウィンの関係があると見られます。

そんなわけで、トランプ氏としては、FIFAのほうがNFLよりも自分に近い存在という感覚を抱いたのかもしれません。今回の「サッカーをフットボールと呼ぼう」「アメリカンフットボールは名称を改めるべき」という発言はこうした経緯から来ていると考えられます。

ここで一つの問題が生じます。それは、こうした姿勢というのは、アメリカの保守が持っているカルチャーとは衝突してしまうということです。アメリカの保守カルチャーとしては、サッカーは欧州や中南米を中心としたグローバリズムに関連したカルチャーという思いがあります。更に言えば、女性や子どものスポーツという偏見を抱く人もいます。チマチマと1点2点を争って無秩序に走り回る意味不明のスポーツなどと言う人もいます。

彼らにとっては、アメリカの保守主義を代表するスポーツはあくまでも「アメリカンフットボール」なのです。ですから、そこから「フットボール」の名称を取り上げようというのは、どう考えても「アンチ・アメリカン」だということになります。問題がこれ以上大きくなった場合は、アメリカ保守の「トランプ離れ」に通じる可能性も否定できません。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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