コラム

45年前の「ハプニング解散」当時と現在の政治状況を比較すると

2025年04月30日(水)14時00分

こうして列挙してみると、同じ5月を迎える段階で、1980年と2025年の状況は全体的に極めて似通っていることに驚かされます。では、石破内閣は80年の第2次大平内閣のように激動の中に飲み込まれてしまうのかというと、必ずしもそうとも言えません。というのは、80年と現在では異なった条件もあるからです。

7)野党は減税の方法など、それぞれ一点豪華主義で参院選を戦う構え。むしろ弱体な石破政権が続く中での参院選のほうが有利と考えている。
8)少数与党のため、不信任案を出すと「通ってしまう」可能性が高い中では、かえって不信任案が出せない。
9)という構造の中では、野党には政権担当の気概も用意もないことは国民には見えてしまっている。そもそも野党各党の立場は違っており、大同団結の機運はない。
10)国民は現状には大きな不満があるが、石破政権を取り替えたいとは思っていない。
11)世論は政治とカネの問題には敏感だが、とりあえず石破体制にはこの点で大きな問題はないとされている。80年の状況では、田中角栄に近い大平を福田が批判するという構図があったが、現在ではこの点について石破総理と旧安倍派の関係は反対になっている。
12)物価への不満は強いが、原因について世論は天災のように受け入れており、内閣の責任を追及するより、対策をどうするかに関心が向かっている。
13)外交の難しさについても、日本としては受け身的に被害の最小化を目指すということで、国民的合意がある。
14)自民党としては前回の衆院選同様に、参院選も限りなくハードルを下げて取り組むと思うので、意外と怖いものはない。


実現可能な政策の幅は意外と狭い

そんな中で、冷静に観察してみると現在の政局には、ハプニング的な契機によって激動が生まれる要素は少ないようです。政局を取り巻く大きな状況は似通っていても、国民の間には「実現可能な政策の幅は意外と狭い」という認識が浸透している、これが45年前とは大きな違いであるように思います。

そのこと自体は世論の成熟といってもいいと思います。その一方で、現在の政治状況では中長期的に国の進路を考えたり、進路を正しい方向に変えるために非連続的な改革を決断したりといったことは、難しくなっているとも言えるでしょう。

【関連記事】
令和コメ騒動、日本の家庭で日本米が食べられなくなる?
教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度

ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 7
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story