コラム

セブン買収提案と、日本経済の今後

2024年08月21日(水)15時00分

利益が薄ければ株価は低迷し、外資からの買収は容易になります。仮に外資に買われてしまうと、高い利益率が要求されて廉価販売のビジネスモデルは壊される可能性が高いと思います。勿論、そうならなかったケースもあります。スーパーの西友はアメリカの巨大資本「ウォルマート」に買収されて経営改革を迫られましたが、多品種を揃えないと集客ができないとか、問屋を含めた複雑な流通構造を一刀両断にはできなかったなどの理由から、外資の側が「この市場に居続けてもメリットはない」という判断をして売却してしまいました。

では、要求度の強い消費者が頑張っている限りは、薄利多売の日本型ビジネスモデルは守れるのかというと、現在はかなり状況が異なってきていると思います。円安が過度になれば、日本企業はより安く買われていきます。安く買った外資は、高利益モデルの実現のために、より大胆なリストラやビジネスの変更をしてくるでしょう。


そうなると、日本型の多品種、薄利多売の小売チェーンを守るためには、買収の危険を避けて上場廃止をすることになります。ですが、賃料と人件費という固定投資に加えて巨額の運転資金を必要とする小売ビジネスの場合に、非上場で大規模化というのは難しい話です。

今回の「セブン買収提案」というニュースは、そのように日本経済が縮小しながら外資に買い叩かれていく流れの序章のように思われます。この流れを断ち切るには、DXと準英語圏入りを加速して、国内の知的付加価値生産性を高めること、それも格差社会にするのではなく、全体の底上げをすることで35年になろうとする経済低迷の歴史に終止符を打つことが必要です。

自民党、立憲民主党、日本維新の会は、それぞれが近日中に代表選挙を迎えます。また、10月には総選挙があるとも言われています。今後も「セブン買収提案」のような事件が続いて日本経済の衰退が加速するのを許すのか、それとも長い低迷の真因を理解して徹底的な改革を主導するのか、日本経済は岐路に立っています。そのようなタイミングにおいて、日本はどのようなリーダーシップを選択するのか、極めてクリティカルな局面が来ています。「セブン買収提案」は、そのような重たい意味を突きつけていると思います。

【関連記事】
最低賃金の引き上げが、実は「企業のため」にもなる理由...労働者の生活を守るだけではない「意味」
年金財政は好転へ...将来は「年金増額」の可能性大な一方、やはり割を食う「あの世代」

ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ和平交渉が2日目に、ゼレンスキー氏と米特

ビジネス

中国万科、償還延期拒否で18日に再び債権者会合 猶

ワールド

タイ、2月8日に総選挙 選管が発表

ワールド

フィリピン、中国に抗議へ 南シナ海で漁師負傷
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story