コラム

G7広島サミットは、ウクライナ和平を主導する気概を見せられるのか?

2023年03月22日(水)16時40分

岸田首相は22日、ウクライナの首都キーウを電撃訪問した Ukrainian Presidential Press/HANDOUT/REUTERS

<中国の和平案に対抗するG7の選択肢が「戦争の継続」だとしたら、それは無責任というもの>

岸田首相がウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談しました。報道では、その理由について、繰り返し「G7を成功させるために、議長国として」訪問したという解説がされています。では、今回の訪問で、岸田首相はG7広島サミットを成功に導く用意が整ったと言えるのかというと、それは違うと思われます。

何よりも、ロシア・ウクライナ戦争についてですが、岸田首相は単に「他のG7首脳がすでにウクライナを訪問している」のだから、G7議長を務める自分も訪問したことで責任が果たせるような口ぶりです。ですが、それでは生死をかけて戦争という事態に直面しているウクライナに対して、単なる政治的な儀式として訪問したと言っているようなものです。

さらに言えば、仮に5月のG7サミットに向けて、ウクライナの応援団であり続けるということは、少なくとも5月まで戦争が継続し、ウクライナでウクライナ人ばかりではなく、ロシア兵士や傭兵グループなども含めて多くの人が犠牲になるということを前提に「サミットを成功させたい」ということです。

これは違うと思います。岸田首相と同じタイミングで、中国の習近平国家主席がロシアを訪問して和平仲介の可能性を示しています。もちろん、習近平としては、ロシアの意向に沿った条件、すなわち最低でも「ロシアが軍事的に制圧している地域」をロシアに併合、もしくは傀儡国家とするという範囲で提案しているものと思われます。仮にそうであれば、そんなことは認められないのは当然です。

G7はベターな和平案を

ですが、このプーチン・習近平の和平案に対抗するG7の選択肢が「戦争の継続」であるとしたら、それは無責任というものです。習近平にしても、戦争の影響による原油高に苦しんでいます。また、これ以上、米中の関係が悪化した場合に、アメリカとの貿易抜きで経済成長を達成できるのかといったら、それはノーだと思います。

習近平にしても、一帯一路構想の中核国家であるウクライナに対して、このような形で「全面敵対」することは損失が大きいわけです。習近平は、ロシアの有利な「戦勝」を作り上げるのが目的ではなく、何よりも中国の国益として和平を望んでいる部分もあると思います。

だとしたら、G7の目標としては、ベターな和平案を示すことが必要だと思います。習近平とプーチンを「引き裂いて」、中国の本音としての「これ以上は戦争状態を継続させたくない」という意向を引き出すのです。その上で、西側として「民主主義を防衛できた」という認識が持てる範囲、ウクライナとして国家の名誉と体裁を保てる範囲を計算しながら、(難しいが)全員が「合意できる」和平案を提示し、粘り強く交渉して合意に持っていくのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

ニュース速報

ワールド

北朝鮮、打ち上げ通告今後行わず 安保理は「米の付属

ワールド

中国国防相、米との対立「世界の災難」 対話呼びかけ

ワールド

トルコ新財務相にシムシェキ氏、エルドアン氏の経済政

ビジネス

バイデン米大統領、債務上限停止法に署名 デフォルト

MAGAZINE

特集:ChatGPTの正体

2023年6月 6日号(5/30発売)

便利なChatGPTが人間を支配する日。生成AIとどう付き合うべきか?

メールマガジンのご登録はこちらから。

人気ランキング

  • 1

    ロシアの「竜の歯」、ウクライナ「反転攻勢」を阻止できず...チャレンジャー2戦車があっさり突破する映像を公開

  • 2

    【ヨルダン王室】世界がうっとり、ラジワ皇太子妃のウェディングドレス姿

  • 3

    【画像・閲覧注意】ワニ40匹に襲われた男、噛みちぎられて死亡...血まみれの現場

  • 4

    広島G7サミットで日本が失ったものは何か

  • 5

    大事な部分を「羽根」で隠しただけ...米若手女優、ほ…

  • 6

    米軍、日本企業にTNT火薬の調達を打診 ウクライナ向…

  • 7

    中国ネット民、BLACKPINKに「中国ファンに感謝しろ」と…

  • 8

    ロシア軍の戦車に徒歩で忍び寄り、爆破して離脱する…

  • 9

    茶色いシミに黄ばみ... カンヌ登場のジョニー・デッ…

  • 10

    メーガン妃が「絶対に誰にも見られたくなかった写真…

  • 1

    【画像・閲覧注意】ワニ40匹に襲われた男、噛みちぎられて死亡...血まみれの現場

  • 2

    歩きやすさ重視? カンヌ映画祭出席の米人気女優、豪華ドレスからチラ見えした「場違い」な足元が話題に

  • 3

    ロシアの「竜の歯」、ウクライナ「反転攻勢」を阻止できず...チャレンジャー2戦車があっさり突破する映像を公開

  • 4

    「日本ネット企業の雄」だった楽天は、なぜここまで…

  • 5

    【ヨルダン王室】ラーニア王妃「自慢の娘」がついに…

  • 6

    62歳の医師が「ラーメンのスープを最後まで飲み干す」…

  • 7

    米軍、日本企業にTNT火薬の調達を打診 ウクライナ向…

  • 8

    「ダライ・ラマは小児性愛者」 中国が流した「偽情報…

  • 9

    ワニ40匹に襲われた男、噛みちぎられて死亡...血まみ…

  • 10

    大事な部分を「羽根」で隠しただけ...米若手女優、ほ…

  • 1

    【画像・閲覧注意】ワニ40匹に襲われた男、噛みちぎられて死亡...血まみれの現場

  • 2

    世界がくぎづけとなった、アン王女の麗人ぶり

  • 3

    カミラ妃の王冠から特大ダイヤが外されたことに、「触れてほしくない」理由とは?

  • 4

    F-16がロシアをビビらせる2つの理由──元英空軍司令官

  • 5

    「ぼったくり」「家族を連れていけない」わずか1年半…

  • 6

    築130年の住宅に引っ越したTikToker夫婦、3つの「隠…

  • 7

    日本発の「外来種」に世界が頭を抱えている

  • 8

    歩きやすさ重視? カンヌ映画祭出席の米人気女優、…

  • 9

    チャールズ国王戴冠式「招待客リスト」に掲載された…

  • 10

    「飼い主が許せない」「撮影せずに助けるべき...」巨…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story