コラム

保守派から即座に包囲網が敷かれた、トランプの出馬宣言

2022年11月17日(木)19時00分

保守系のFOXニュースが、トランプの出馬宣言の翌朝に、そのペンス氏を呼んでトランプの立候補を批判させるというのは、もちろんFOXの編成方針に過ぎません。ですが、こうした姿勢には、ある程度は現時点での保守系の視聴者の支持があると考えることができます。

議会の方も動きが急となっています。まず、共和党は中間選挙の結果を受けて来年1月に招集される「第118期連邦議会」へ向けて、多数党となる見込みの下院としては下院議長候補を、少数党となる上院では少数党院内総務の、それぞれ選出を行いました。

具体的には、下院議長候補としてはケビン・マッカーシー議員、上院院内総務としてはミッチ・マコネル議員が選出され、いずれも各院の議員団のリーダーは続投という順当な選択となっています。ですが、特にマコネル議員に関しては、トランプが「中間選挙敗北の責任を取って交代すべき」と強く迫っていたわけで、これを一蹴した形となっています。

自身への捜査を牽制か

最も注目されたのは、共和党内で大統領選出馬への待望論の高まっているフロリダ州のロン・デサンティス知事です。知事は、トランプ出馬が報じられる中で、2024年の大統領選について問われると「中間選挙も終わったばかりであり、今は冷静になるべき時」と述べ、その姿勢は好感をもって受け止められているようです。

そんなわけで、今回の出馬宣言は特にインパクトがなかったばかりか、共和党サイドから早速包囲された形となっています。それ以前の問題として、中間選挙の選挙運動中に「11月15日に大きなアナウンスメントをする」と宣言してしまったことから、今回の発表がサプライズでもなくなったという事実があります。

では、どうしてこんな時期に「出馬宣言」をしたのかというと、一部には「正式な大統領候補となれば」FBIや国税(内国歳入庁=IRS)による捜査活動や起訴を「大統領選を歪める政治的行為」だとして牽制できるから、という解説があります。

さらに別の見方としては、共和党系のアナリストであるパリス・デナードによれば、「トランプは政治献金を集めるのに必死で、早期に出馬宣言したのは寄付をしてくれる資産家へのメッセージ」という見解もあります。こうしたコメントが、超保守系のサイトで、かつては「トランプ御用メディア」であった「ブライトバイト」が紹介しているあたりに、アメリカの保守世論の現在の一面が見られるように思います。

ニューズウィーク日本版 世界も「老害」戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月25日号(11月18日発売)は「世界も『老害』戦争」特集。アメリカやヨーロッパでも若者が高齢者の「犠牲」に

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

高市首相、中国首相と会話の機会なし G20サミット

ワールド

米の和平案、ウィットコフ氏とクシュナー氏がロ特使と

ワールド

米長官らスイス到着、ウクライナ和平案協議へ 欧州も

ワールド

台湾巡る日本の発言は衝撃的、一線を越えた=中国外相
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 5
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story