コラム

石原慎太郎氏が残した3つの謎

2022年02月02日(水)14時00分

ですから、資金がなくても票が転がり込んでくるわけで、反対に派閥の領袖として頭を下げてカネを集めるのは不得意だったのでしょう。84年の挫折の背景にはそうした問題があったのだと思います。カネ集めに失敗したというだけでなく、バブルへと向かう世相の中で、世論のニーズが読めなくなっていたのだと思います。

最終的に1995年に「ブチ切れ」たかのように議員辞職して中央政界を去ったのも、やはり政治家としての限界を悟っただけでなく、橋本龍太郎氏や森喜朗氏などとの確執があったのでしょう。ちなみに、田中角栄氏については再評価するような本を書いていますし、森喜朗氏との関係は修復したようですが、いずれもずっと先の話です。

国政とは反対に、都知事としては、ポピュリズムで票を集めつつ、それだけでは足りなかったのか、カネに関しては利権への関与が取り沙汰されるなど、良くも悪くも都政がシステムとして回っていく仕組みを作り上げたのだと思います。こうした問題については、平成期の政治史としてしっかり検証が必要と思います。

「維新」との違い

3つ目の謎は、その石原都政と現在の維新の会の違いです。どちらも右派のポピュリズムを原動力としていますが、石原都政は地場の利権にはフレンドリーで「大きな政府」でした。その点では大阪維新とは大きく違います。大阪維新は地場の利権を潰す「極端な小さな政府論」に立っているからです。またそれが人気の一因となっています。

この違いは、首都東京と大阪の経済力の差とか、豊かさの残っていた2000年代と衰退の痛みが顕著となった2010年代の違い、というような説明だけでは十分ではないように思います。この問題については、現在進行形で国政における影響力を増しつつある維新について、政治的なポジションを見定める上で重要な比較論になると思います。それは、21世紀の日本の保守主義というのが、何を核にしていて、どこへ向かおうとしているのかを問うことになるからです。

ちなみに、晩年の石原氏は短い期間だけ維新の国会議員であったことがありますが、あれは政策ではなく保守的なイデオロギーを掲げた一種のタレント議員という扱いでした。図らずも政界進出の原点に戻った格好とも言えるわけで、この比較論をする際の参考にはならないと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

インドのモディ首相、キプロス訪問 貿易回廊構想の実

ワールド

イスラエル・イラン衝突、交渉での解決が長期的に最善

ビジネス

バーゼル銀行監督委、銀行の気候変動リスク開示義務付

ワールド

訂正-韓国大統領、日米首脳らと会談へ G7サミット
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story