コラム

気象庁ホームページへの広告枠、その違和感の数々

2020年08月25日(火)16時20分

日本の気象庁の予算は米海洋大気庁の12%程度 Kim Kyung Hoon-REUTERS

<官公庁の危機管理の情報源に広告枠を設けることへの疑問もあるが、そもそも気象庁の予算は少なすぎるのではないか>

気象庁はその公式サイトに広告枠を設け、2020年9月中旬から広告掲載を始めるそうです。報道によれば、このサイトは年間で約80億回弱のアクセスがあり、官公庁のサイトの中では圧倒的にトップのアクセス数を稼いでいるのだそうです。そのアクセス数をベースに、広告料収入を稼いで、その収益をサイトの運営経費に回す計画です。

しかしこの計画には違和感を覚えざるを得ません。

まず、気象庁サイトへのアクセスというのは、その数の背後に特殊な事情を抱えています。1つは、年間を通じて多くの人が閲覧するというより、異常気象時にアクセスが集中するサイトだということです。ということは、アクセス数のうち相当な部分は「台風が心配」だとか、あるいはもっと具体的に「レーダー映像を見て早めに危険を判断したい」とか「特別警報が出されていないかを見たい」など、役割上のアクセスであったり、非常に切羽詰まったアクセスだということが考えられます。

ということは、広告バナーをクリックして広告サイトに飛ぶ比率は非常に少ないことが予想されます。近年のウェブ広告は、そうしたデータも踏まえて広告料が決定されるようですから、閲覧数の割に広告クリックが少ないサイトはそんなに稼げないと思われます。

次に広告出稿をする側からすると、ちょっと困ったサイトという位置付けになると思います。というのは、気象庁のサイトというのは危機管理のツールだからです。国民全ての危機管理ツールです。そこに「ひょっこり」と私企業の広告が出てくれば、クレームに繋がる可能性があります。それでもいいからランダムにブランドの知名度を上げたいという企業は限られるでしょう。

サイトの印象が悪化するおそれも

そうなると、知名度があり、バナーのクリエイティブにお金をかけることのできる企業や、世評に敏感な企業ではなく、乱暴に知名度を稼ぐ目的だけで掲載してくる企業ばかりとなり、余計にサイトの印象は悪化する可能性があります。

現実的には、巨大な多国籍企業に任せて、ユーザーの閲覧パターンから逆算して広告を個別表示するという運用になる可能性もあると思います。その場合は、今度はどんな広告が表示されるかは、個別にAIの統計処理アルゴリズムになるので、管理はできなくなります。その結果として、明らかに官公庁の危機管理サイトとしては相応しくない広告が表示される危険はあると思います。

<関連記事:コンビニで外国人店員の方が歓迎されるのはなぜか?

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、ガザ市住民の避難に新ルート開設 48

ワールド

南アCPI、8月は予想外に減速 金融政策「微妙な判

ビジネス

英8月CPI前年比+3.8%、米・ユーロ圏上回る 

ビジネス

インドネシア中銀、予想外の利下げ 成長押し上げ狙い
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 9
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 10
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story