コラム

「リアリティー・ショー」のプロ、トランプが仕掛ける虚実ない混ぜの演出

2020年05月28日(木)16時00分

無茶な話ですが、これも故意に虚偽情報を流すことで、政治的な敵味方を「あぶり出す」のが目的だと思います。結果的に、民主党サイドだけでなく、同じ共和党内でもトランプ批判派である、ミット・ロムニー上院議員であるとか、ターゲットになったスカラボロ氏のミカ夫人など、「トランプの敵」が必死になって批判すれば批判するほど、コア支持者にはそれを叩いて喜ぶチャンスが与えられるという仕掛けです。

一貫してトランプを批判しているスカラボロ氏に関しては、コア支持者は以前から不快感を持っていたわけで、そこへトランプ自身がこの陰謀説を紹介すると、ニュースに関するリテラシーの低い支持者は「もしかしたら殺人に関与しているかも」と思い込まされてしまう可能性も十分にあります。

つまり陰謀論という虚構を投げ入れることで、政治的な敵味方を「試す」だけでなく、敵と味方の対立を煽って、自身の支持基盤を固めることができる、そんな手法です。また、ニュースメディアがこの話題に食いついてきて、それでメディアが騒いでくれれば、「コロナによるアメリカでの死者が10万人を突破へ」という、自分にとって不利になるようなニュースの扱いを最小限にできる意図もあると思います。

こうした手法による世論誘導については、トランプが選挙運動を始めた2015年夏からずっと問題になっていました。そしてジャーナリズムとしてこれに対抗するには、事実を伝え続けるしかない、そうした言い方がされてきたのです。

ですが、そうした真正面からの批判だけでは相手の術中にはまってしまうこともあるように思います。場合によってはスルー(無視)する、政治的意図を計算して逆を張る、ここぞという急所では徹底的に虚偽を暴き確実に政治的失点を奪う、といったメリハリのある対策が必要になると思います。

アメリカの大手メディア、そして民主党政治家に関して言えば、そうした戦略という点では、決して十分ではないと思います。事実さえ突きつけていれば、世論はついてくるし、相手から失点を奪えるというのは、甘い考え方と言わねばなりません。何しろ、相手は競争の激しいアメリカの「リアリティー・ショー」の業界で14シーズン(足かけ12年)にわたって、地上波プライムタイム枠で成功を収めてきたプロなのですから。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英中銀ピル氏、4月インフレ低下予想に過度に安心しな

ワールド

パキスタン首都で自爆攻撃、31人死亡 シーア派モス

ビジネス

米ミシガン大消費者信頼感、2月速報値は小幅改善 物

ワールド

米イラン高官が核協議、アラグチ外相「継続で合意」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近したイラン製ドローンを撃墜
  • 2
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入った「最強ライバル」の名前
  • 3
    韓国ダークツーリズムが変わる 日本統治時代から「南山」、そして「ヘル・コリア」ツアーへ
  • 4
    地球の近くで「第2の地球」が発見されたかも! その…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 7
    鉱物資源の安定供給を守るために必要なことは「中国…
  • 8
    「右足全体が食われた」...突如ビーチに現れたサメが…
  • 9
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 10
    「エプスタインは悪そのもの」「悪夢を見たほど」──…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 4
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 7
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 8
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流してい…
  • 9
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story