コラム

「リアリティー・ショー」のプロ、トランプが仕掛ける虚実ない混ぜの演出

2020年05月28日(木)16時00分

トランプのリアリティー・ショーでは「You're fired(あんたはクビだ)」が決め台詞に Chip East-REUTERS

<「現実と虚構を混同させる」リアリティー・ショーの演出が問題になっているが、その草分けとして人心を掌握したのがトランプ大統領>

日本でリアリティー・ショーの弊害が問題になっています。このジャンルは、現実と虚構を混同するように誘導する、これが番組制作の最大の目的になっています。ですから、結果として、視聴者が演技をしている「中の人」と役柄を混同し、場合によっては「中の人」への中傷や攻撃をすることもあり得ます。こうした問題は、欧米でも数多く発生してきました。

こうしたリスクに対しては、虚構を事実と信じて反応してしまう視聴者に責任があるという論調も見られます。ですが、番組としては、あくまで演出技術を駆使して、視聴者が虚構を事実と誤解するように作っているわけです。それにもかかわらず、騙された視聴者が悪いというのは無理があります。あくまで虚構は虚構として受け止められるよう誤解を防ぎ、それでも興味が失われないような演出を行う、制作サイドにはそのような責任が求められています。

その一方で、リアリティー・ショーに代表されるような「現実と虚構を混同させる」演出は、エンタメにとどまらず、政治の分野でも見られます。その代表は、やはりドナルド・トランプという政治家でしょう。

そもそもは「アプレンティス(実習生)」という経営者見習いの若者を競わせる「リアリティー・ショー番組」で成功を収めたことが、知名度だけでなく、人心を掌握するスキルを獲得する契機となった人物だけに、そのテクニックは相当なものです。

騒がせて嘲笑することを狙った発言

現在進行形のものだけでも、色々あります。最も問題なのは、新型コロナウイルスの感染拡大には、中国政府が関与しているといった陰謀論です。ですが、もっと具体的なものとしては、例えば「自分は抗マラリア薬のヒドロキシクロロキンをコロナ予防のために飲んでいる(現在は止めたと言っています)」などと平然と口にするというのもその1つです。

科学リテラシーの低い支持者には「大将はさすがにやることが凄い」と思わせる一方で、反対派には「認可されていないし、副作用があって危険だし、そもそも治療薬を予防目的に飲むのはおかしい」などと思い切り騒がせる、それも計算済みだと思います。つまり、科学と政治リテラシーの高い支持者は「リベラルが真に受けて大騒ぎしている」と嘲笑するように誘導できるわけで、ある意味で高度なテクニックです。

また、これも現在進行形ですが、トランプ批判の急先鋒である中道右派のキャスター、ジョー・スカラボロ氏について、同氏が下院議員であった時代に殺人に関与していると再三にわたって「陰謀論」を展開しています。この問題では、亡くなった女性の夫が激怒しており、トランプのツイッターアカウントを閉鎖するとかしないという問題に発展しています。ですが、本人や報道官は「すでにあった陰謀論を、こういう話もあるとして紹介しただけ」などと居直っているのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

豪就業者数、8月は5400人減に反転 失業率4.2

ビジネス

イーライリリー経口肥満症薬、ノボ競合薬との比較試験

ワールド

トランプ氏、反ファシスト運動「アンティファ」をテロ

ビジネス

機械受注7月は4.6%減、2カ月ぶりマイナス 基調
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story