コラム

トランプを恐れぬ女性、ニッキー・ヘイリーの野心とは?

2018年12月13日(木)16時15分

ヘイリー大使といえば、サウスカロライナの知事になった2010年以来、インド系の共和党政治家として有名です。また、ウォーレン議員については「インディアン=アメリカ原住民の末裔」ということを大統領自身が「どうせウソだからDNAテストしたら」などと話題にしていたのでした。(実際はテストして本当だと証明されています)ですから、「同じ部族?」と聞いて来たということは、大統領は「インド系を意味する『インディアン』」と、「アメリカ原住民を意味する『インディアン』」の区別がついていないという指摘をしているわけです。

こうしたジョークを公的な場で言うというのは、他の人であれば、それこそ大統領の「スーパー激怒」を買うかもしれないわけですが、ヘイリー大使は「自分は大丈夫」としているのです。

そんなわけで、ドナルド・トランプという「気難しいボス」に2年間仕えて、胸を張って辞めていくヘイリー大使は、アメリカ政界の中で非常に特殊な立ち位置を確保したのは間違いありません。

本人は「知事になったのも、国連大使になったのも周囲が立ててくれたから」と野心を否定(?)していますが、現在ワシントンではこのニッキー・ヘイリーという特異な才能に対して、様々な待望論が語られているのは間違いありません。

1つは、共和党主流派と民主党が結託して、大統領弾劾に持っていった場合に「昇任するペンス氏の副大統領(または国務長官狙いという説も)」というポジションです。中には、今回の辞任劇はそのシナリオに沿ったものだという解説も語られています。

2つ目はもっと驚くような話で、2020年に「トランプ=ペンス」の組み合わせでは民主党に対抗できないのでペンス氏が辞任して、2020年のトランプのパートナーには、ヘイリー氏を立てるというストーリーです。

3つ目は、2024年に堂々と予備選に勝って共和党の大統領候補を狙うという作戦を描いているという説です。

本人の心の中にあるのは、この3つのどれかは分かりません。ですが、今回の鮮やかな辞め方だけを見ても、この人の類いまれな政治的な才能は明らかであり、今後も注目されることは間違いないでしょう。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

SBI新生銀のIPO、農林中金が一部引き受け 時価

ワールド

米下院がつなぎ予算案可決、過去最長43日目の政府閉

ワールド

台湾経済、今年6%近く成長する可能性=統計当局トッ

ビジネス

在欧中国企業、事業環境が6年連続悪化 コスト上昇と
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 4
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 7
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 10
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story