コラム

中間選挙後の米政治は「ねじれ議会」でますます不透明に

2018年11月08日(木)16時00分

今回の選挙で上院の過半数を共和党が占めれば、「セッションズ氏の後任を指名しても、上院に拒否される可能性は薄くなる」として、同氏を堂々と解雇できるという指摘は選挙運動中からされていたのでした。

その予想が的中したわけですが、トランプ大統領は強気な作戦に出ました。司法長官というのは、日本で言えば「法務大臣と検事総長が合体した」ような強力な権限を持つポストです。ですから空席は許されず、セッションズ氏の辞任後、正式な司法長官が上院で承認されるまでの間、代行を置かねばなりません。

その司法長官代行には、ローゼンスタイン司法副長官をあてるのが常識的と考えられます。ですが、トランプ政権に対して是々非々で臨むローゼンスタイン氏を嫌ってか、大統領は別の人物を指名しました。それは、セッションズ氏の補佐官であったマシュー・ウィテカー氏です。

このウィテカー氏は、「ロシア疑惑は魔女狩りだから捜査は中止すべき」とか「トランプの長男がロシア政府の息のかかった女性弁護士と会っていた件も全く問題はない」などと、徹底したトランプ擁護発言を繰り返してきた人物です。

では、このままウィテカー氏を正式な司法長官に任命して、上院の審査を受けるようにしたらどうかというと、さすがに「現在進行中の懸案について、大統領の利害を一方的に代弁し続けた」ということで、司法省の倫理規程に引っかかるらしく、それは無理筋だというのが一般的な見方です。

そうであっても、とにかく選挙の翌日に司法長官を更迭し、極端に自分寄りの人物を代理に指名するやり方は極めて強引です。まるで、下院の過半数を確保したことから、国政調査権を発動して「ロシア疑惑」などの暴露を続けようという民主党を挑発するような姿勢です。

選挙後のトランプ政権は「もう少し常識的に政権運営をするだろう」という見方、ないしは期待感はありました。例えば、景気後退が怖い中で、選挙さえ終われば中国との通商交渉はするでしょうし、インフラ整備問題などで下院・民主党との協調も模索される可能性は確かにあります。

ですが、分断を煽り、日替わりでニュースのヘッドラインの材料を提供してメディアを揺さぶってきたトランプ流の政治手法は、中間選挙という区切りを経ても終わりそうもありません。司法長官更迭とトランプ派の司法長官代行指名という事件は、ますます今後の政局への不透明感を強めることとなりました。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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