コラム

五輪対策のサマータイムで健康被害はあるのか?

2018年08月16日(木)18時40分

つまり「日照」を「良いもの」だとして利用しようというのが高緯度地方のサマータイムだと言えます。省エネ効果ということで言えば、夕方から晩にかけての照明コストの削減ということになります。

ところが、今回の東京五輪へ向けてのサマータイム構想は、全く違います。日照時間を「良いもの」として活用しようというのではなく、反対に酷暑対策として、昼間から夕方の時間を避けるのが目的だからです。つまり、7月から8月においては、24時間の中で「ここしか涼しくない」という日本標準時の5時から7時の時間帯を何とか有効活用しようというものです。

2時間の時間シフトが検討されているのは、その「午前5時台」という「黄金タイム」を活用するためです。省エネということでも、冷房コストの削減を狙ったものであり、高緯度地方とは発想が全く違います。健康への影響ということでは、熱中症対策という効果を考えれば救命になるケースも想定されるわけで、前述したような「時差による負荷」を上回る効果が生まれるかもしれません。

気になるのは、業務用・民生用のソフトウェアですが、アルゴリズムとしてはそれほど複雑なものでないので、綺麗なプログラムであれば大した負荷にはならないと思います。グローバルな汎用ソフトであれば、国別の設定パラメーターを変えれば対応可能でしょう。

ただし、オーダーメイドで筋の悪い改訂を重ねたシステムの場合は、修正の作業は多くなる危険はあると思います。その場合は、この件で絶対に現場に負荷をかけない、また「タダ働き」をさせないということで、公正取引委員会と労働基準監督署が威信をかけて取り締まることで、業界の改善の契機としてはどうでしょうか。

日本全国で筋の悪いプログラムが大量にあって、とても修正が間に合わないというのであれば、時計をずらすのではなく、予定をずらす方法で対処を検討してはどうでしょうか。つまり始発電車が午前3時半とか、出勤が午前6時、五輪のマラソンのスタートは、いっそ午前5時。昼食タイムは午前10時。その代わり、終電は22時30分、退社時間は18時厳守という方法です。政治的な対立にする前に、実務的な検討をしてみる価値はあるはずです。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

マスク氏、第3政党始動計画にブレーキ=WSJ

ワールド

米大豆農家、中国との購入契約要請 トランプ氏に書簡

ワールド

韓国は「二重人格」と北朝鮮の金与正氏、米韓軍事演習

ワールド

トランプ政権、ワシントン検事局に逮捕者のより積極的
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 4
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 5
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 6
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    【クイズ】沖縄にも生息、人を襲うことも...「最恐の…
  • 9
    時速600キロ、中国の超高速リニアが直面する課題「ト…
  • 10
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 7
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 10
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story