コラム

イラン核合意離脱でわかる、トランプ政権の行動パターン

2018年05月10日(木)16時00分

結局トランプがやりたいのは支持者に向けた劇場型の政治ショー Jonathan Ernst-REUTERS

<トランプがコア支持者向けの政治ショーを演出したいだけなのは明らかで、米朝首脳会談を前に、これでは相手の思う壺>

5月8日にトランプ米大統領はテレビ会見を開き「イランとの核合意」から離脱すると発表しました。順序としては、前日にホワイトハウスから「8日にイランとの核合意に関する発表を大統領が行う」ことはアナウンスされていました。

ですが、各メディアのトーンは直前まで「まさか離脱はしないだろう」という姿勢であり、「せいぜいが期日を切って、あらためて見直す」というような発表になる、そんな観測も囁かれていたのです。しかし発表直前になって「やはり離脱らしい」という情報が流れ大騒ぎとなったのでした。

その発表ですが、トランプ大統領の演説としては典型的とは言え、非常に乱暴な内容でした。まず離脱の理由は、「この合意が最低のものだから」という選挙戦当時からの主張と寸分変わらないものだったのです。とにかく、イランという国に対して悪口を並べ立て、ついでに核合意についても「最悪」という非難を繰り返したのでした。

一部には、トランプがこうした「毅然とした」姿勢を見せたことで、北朝鮮には「核放棄の合意」を受け入れなくてはならない、そんなプレッシャーが強まったとか、トランプ流の交渉術という見方があります。

ですが、今回のあまりに乱暴で一方的な合意からの離脱という行動は、米朝交渉をかえって難しくする可能性があるように思われます。

まず政権が変わったという理由だけで、特に条項に違反してもいないのに合意を離脱するということで、国家の信用を損ねたという問題があります。日本の場合は、韓国の政権交代による日韓合意の機能停止に際して、その不快感を経験していますが、そのような一方的な変更を平気で実行することは外交交渉を不利にします。

次に、今回のイラン核合意離脱については、直前まで反対する欧州各国との調整が続いていたわけです。欧州各国からは、合意が失効しても12カ月以内に核兵器の製造が再開されたら「制裁をスタートする」という条件まで譲歩案が出ていたそうですが、トランプ政権はこれを蹴っています。同盟国を「コケ」にするような外交を続けていては、同盟国との協調での圧力の効果も半減するというものです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米製造業新規受注、9月は前月比0.2%増 関税影響

ワールド

仏独首脳、米国のウクライナ和平案に強い懐疑感 「領

ビジネス

26年相場、AIの市場けん引続くが波乱も=ブラック

ワールド

米メタ、メタバース事業の予算を最大30%削減と報道
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 8
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 9
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 10
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story