コラム

デトロイト・モーターショーは手動運転の「終わりの始まり」?

2018年01月16日(火)16時35分

一つの例としては、台湾は「自動運転の実用化モデルケース」になろうという動きを官民挙げてスタートさせているのですが、その状況報告と、問題提起というのもこのシンポジウムの中で行われる予定です。また、国土の極端に狭いシンガポールでは、この自動運転技術の実用化は交通インフラ整備という政策の中で、極めて優先順位が高いということで、国の交通大臣もこのシンポジウムに参加するそうです。

同様の、そしてもっと大規模なイベントは、2月26日からはシリコンバレーで、 4月19日からは上海で、6月5日からはドイツで、順に行われて行きます。つまり、ウーバーやグーグル(ウェイモ)などの先行企業だけでなく、後発まで含めて、自動運転車の技術はほぼブレイクスルーに近づいている中で、現在は、社会全体として制度設計や、インフラ対応などを討議する段階に来ているということです。

この種のシンポジウムは、そうした世界標準の合意形成の場であるわけで、そこに食い込んで行かないと「標準規格への食い込み」ができないわけです。その点、日本企業はトヨタや日立などは比較的積極的に参加しているものの、全体的には官民挙げての参加という意味で存在感が小さいのが気になります。

と言いますか、自動車産業の主要なプレイヤーである日本は、この大きな産業全体の改革期に当たって、日本でのシンポジウム・見本市開催などで業界を積極的に牽引して行かなくてはならないはずですが、その動きも今ひとつ鈍いのが気になります。

この大きなトレンドというのは、実はアメリカでも一般社会ではそれほど理解されているわけではありません。例えば、デトロイト・モーターショーに関して、ニューヨーク・タイムズは「デトロイト・ショーは良き時代の終わりを告げる」という記事を掲載していましたが、その内容はあくまで「過剰生産設備」のせいで、自動車販売の景気は2018年までは好況が続くが、19年からは暗転するという景気サイクルの話にとどまっていました。

ですが、実際のところでは「自動運転技術」と「自動車のシェアリング」というビジネスモデルは、どんどん革新を続けており、もしかしたら今回のデトロイト・モーターショーを契機とした一連の見本市とシンポジウムというのは、「手動運転の自動車」という文明の「終わりの始まり」かもしれないのです。


ニューズウィーク日本版のおすすめ記事をLINEでチェック!

linecampaign.png

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

世界経済は「底堅い」が、関税リスクを織り込む必要=

ワールド

米ロ首脳、ハンガリーで会談へ トランプ氏「2週間以

ワールド

G20財務相会議が閉幕、議長総括で戦争や貿易摩擦巡

ワールド

米ロ外相が近日中に協議へ、首脳会談の準備で=ロシア
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体は?
  • 4
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 5
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 8
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 9
    ホワイトカラーの62%が「ブルーカラーに転職」を検討…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story