コラム

「トランプ減税」成立は米政治の大きな転換点

2017年12月21日(木)16時10分

2つ目は、議会共和党とホワイトハウスの関係です。共和党のトランプ政権が発足してからほぼ1年が経過したわけですが、ホワイトハウスと議会は「つかず離れず」どころか、何度も衝突を繰り返してきました。ですが、今回は違います。議会共和党と大統領は一致して、この大胆な税制改正を実現したのです。

こうなると、さすがに「トランプ降ろし」は難しくなります。ホワイトハウスの側としても、9月中旬に原案を公開した際には、ここまで共和党が協力して原案に近い改正ができるとは思っていなかったと思います。もちろん、今後もイザコザは続くとは思いますが、この税制改正を契機として「議会共和党は、ドナルド・トランプから逃げられなくなった」ということは言えます。

3つ目は、大統領の側としては、2018年の中間選挙への「手応え」を感じているのだと思います。もちろん景気の拡大は大前提ですが、仮に世論調査の支持率が低くても、これだけの「バラマキ」、しかも「減税というキャッシュのバラマキ」をやるわけですから、政治的には攻勢がかけられるとふんでいるのは間違いありません。

中間選挙で上下両院の過半数を確保、特に下院での絶対多数を確保していれば、弾劾裁判による罷免という可能性はかなり低くなります。2018年の選挙は、この点で非常に重要であり、そのための大減税だったわけです。

4つ目ですが、共和党全体としては、これは「アイデンティティの危機」になります。というのは、共和党の掲げるイデオロギーは「小さな政府論」であり、それは単に減税を志向するというだけでなく、「財政規律」という考え方を伴っていたのですが、ある意味で今回、その「財政規律」を「かなぐり捨てた」からです。

ということは、90年代にニュート・ギングリッチ下院議長(当時)を中心に、クリントン政権に「均衡予算」を迫った経験、そして2009年から「小さな政府」と「財政規律」を要求してオバマ政権に挑戦した「ティーパーティ(茶会)」運動などに見られた共和党の路線は、ここで否定されたことになります。

5つ目としては、ここまで大規模な歳入カットを決めたということは、アメリカが自ら「そう簡単には戦争に踏み切れない」という縛りをかけたことを意味します。朝鮮半島でも、中東でも大規模な軍事作戦が起きる可能性は低くなったと考えられます。

2017年のアメリカの政局は、この税制改正案可決という大きな政治的事件と共に終わりを告げようとしています。2018年も、引き続き筋書きのないドラマが続いていくことになるのでしょう。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

メキシコ当局者、中国EV現地生産に優遇策適用せず 

ワールド

WHOと専門家、コロナ禍受け「空気感染」の定義で合

ワールド

麻生自民党副総裁22日─25日米ニューヨーク訪問=

ワールド

米州のデング熱流行が「非常事態」に、1カ月で約50
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story