コラム

「オータニフィーバー」過熱で注目される、米メジャーリーグの二刀流

2017年11月28日(火)15時30分

もう1人は、同じく2017年のドラフトで、1巡目2番目指名という高い評価を得てシンシナティ・レッズと契約したハンター・グリーン選手です。グリーン選手の場合は、将来を嘱望されている一方で、今シーズン途中からルーキーリーグで「二刀流のテスト」を行い、結果的には「投手に専念」ということになっています。

ですが、18歳とまだ若いこともあって、仮に大谷選手やマッケイ選手が活躍して、二刀流が人気を博するようになれば、あらためて挑戦することもあるかもしれません。いずれにしても、偶然とはいえ、ドラフトで入団した複数の選手について、かなり真剣に二刀流議論が進んでいるという事実があります。そのうえで、大谷選手を見れば、レベルの高い日本の1軍プロで二刀流を成功させているという実績は、否が応でも「まぶしく」見えてしまうわけです。

2つ目のキーポイントは、先発ローテーションの人数の問題です。二刀流となれば、5人ローテーション、最低中4日では、登板間隔が短い中で疲労回復をしてなおかつ野手での出場ということになれば、時間に余裕がありません。ですが、6人ローテーションならば、最低中5日になるわけで、二刀流が成立する可能性が高まります。

このローテーションですが、6人制にせよという声が球界の中では高まっています。例えば、ダルビッシュ有投手などは急先鋒で、積極的に発言していますし、例えば同じ日本人投手の中で田中将大、前田健太といった投手達も、おそらく同じように「6人制、最低中5日」を希望していると思われます。

もちろん現在の5人制で大成功している投手からすれば、登板機会が6分の5になる、つまり年間の先発試合数が32から27に減るということは簡単には同意できないでしょう。まず年俸の分け前が減るということがあり、年間の勝ち星や通算の勝利数にも影響が出るなど、副作用があるからです。

ですが、ここ数年、ヒジを壊して手術をする投手が急増していることもあり、「6人制、最低中5日」というのは、必要な改革として定着するかもしれません。これは、ルールの問題ではなく、チームの編成方針と、各当事者選手の問題ですし、何も全チームが一斉に行う必要もないわけです。例えば、高給での長期契約をしているスター投手を多く擁する球団は、簡単には6人制に移行できませんが、若手で固められたローテーションの球団であれば、一気に2018年から6人制ということも可能です。

そんな中で、「大谷選手の交渉権を取ったら6人制を考えよう」という計算をしている球団もあるようです。ということは、大谷選手がどの球団と契約するかによって、投手に関する契約更改や移籍のストーブリーグの様相は変わってくるわけです。また、仮に大谷選手をDHもしくは一塁手などの中距離砲としても計算するのであれば、やはり彼を取るか取らないかで、チームの補強方針が変わってくるのかもしれません。

そんなわけで、二刀流論議は極めて現実的な問題として、メジャーでは進行中ですし、またその結果として、大谷選手の去就が大きく注目されているということにもなっているわけです。それにしても、今回のストーブリーグの目玉である、マイアミ・マーリンズのスタントン選手(今季のナ・リーグ本塁打王、MVP)を差し置いて、大谷選手が「注目度1位」というのは、少々加熱気味であり、もう少しメディアも各球団も冷静になって欲しいと思います。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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